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第36回部落解放研究京都市集会

  第7分科会

解放教育U 他者との共生をめざして

 

                            みやこめっせ大会議室

 

  司  会     村松 伸治 (京都市中学校同和教育研究会)

                          土佐 雅一(京都市小学校外国人教育研究会)

           

  記  録      建部 正人 (京都市中学校同和教育研究会)

           金谷 直樹(京都市小学校外国人教育研究会)

  担  当    須川 和幸(京都市中学校同和教育研究会)

           

  1:30〜  分科会の流れ、討議の柱、パネリスト紹介

  1:40〜  実践報告「人権学習の拡がりと深まりを求めて」〜同和生徒の思いから〜

         パネリスト 水野博之さん(京都市立洛南中学校)

  2:25〜  「部落解放への私の思い」〜私の受けた同和教育それから〜

         パネリスト 林由佳さん(京都文教大学)

  2:40〜  質疑応答

  3:20〜  「カムアウトの思想」〜人権獲得への出発点〜

         パネリスト 藤原史郎さん(全国在日外国人教育研究協議会 前会長)

  4:25〜  質疑応答

 

  *参加者     144名 

 

■討議の柱と分科会でこれまで話し合ってきたこと

 

 ・外国人教育方針の具現化

 ・総合的な学習の時間で展開されている人権教育

 ・人権を柱とした学校づくり

 ・ダブル・外国にルーツを持つ児童・生徒や中国帰国及び新渡日の児童・生徒に対する教  育保障やアイデンティティーの形成

 ・他者との共生を視点に、被差別の立場におかれている児童・生徒のアイデンティティー  の確立と生きる力の育成

 

 

■実践報告(要旨)

 

T 水野博之さん

 同和地区を校区に含む中学校での人権教育の実践と同和地区生徒の思いの変容をお話しされました。

・学校教育活動全体の在り方を問い直し、人権尊重の学校づくりにむけて学校全体で取り組 んだ。「人権学習カリキュラム」「総合的な学習の時間」「職場体験」など。

・これまで同和地区生徒を対象に行ってきたセンター学習やチャレンジ体験学習などの取組 をすべての生徒に呼びかけ(共同利用)、保護者・生徒が同和問題とプラスイメージで出 会える機会となった。

・「結の会」は同和地区生徒の社会的立場の自覚、同和問題認識の深化、保護者と協力して 生徒を育てることなどを目的にした取組。以前は「センター学活」として取り組まれてい た。閉講式では同和地区生徒が考えや思いを発表。

  A子 共同利用への不安(本当のことをいえなかった自分)。キム・キョンジャさんと  の出会いをきっかけに「同和地区に生まれたことに誇りを持ち、どんな差別にも立ち向  かっていく」と決意をもって卒業。

  C男 ラグビーや仲間との出会いが彼の自己肯定感を育んだ。チームメイトにも自分の  ことをいえなかったが、「差別にあっても逃げることなく堂々としていく」と決意を語  る。現在ニュージーランドへの留学を経て体育の先生を志している。

  B男 「地域に誇りをもてない」自分が(自らを)差別をしていることに気づく。「部  落差別や様々な差別にであったとき、それは違うといえる知識と勇気を持ちたい。」

  D男 「考えは人それぞれ、でも同和問題のことはちゃんと知って欲しい。」「太鼓た  たいてるのおれや。」

・部落差別がいまだある社会、「結の会」のような同和地区生徒のアイデンティティーを持 たせる取組は継続していく必要がある。

 

 

U 林由佳さん

 同和教育を受けた立場から同和教育が果たした役割と課題。そして、その後自分が行動していくなかで感じたことや考えたことをお話しされました。

・小学校時代、記憶にあるのはセンターでの学習。「ともだちはどうしていかないの?」と いう違和感をもった。

・中学校時代、生徒会活動などを通じて学校生活全般が人権学習だった。ただ、先生と接し ているときに矛盾や負い目を感じることがあった。守られてきてありがたく思う反面、私 たちだけ過剰に守られていると感じた。私たちと同じように在日朝鮮人の子供やしんどい 家庭環境におかれている子供もクラスにはいたはず。「同和地区出身」ということは私の 一部にすぎない。一人の人間として、ほかの生徒と同じように接してほしかった。

・これまで、友人には自分のことを知ってほしいと思い、カミングアウトしてきた。しかし、 中学校卒業後には自分がカミングアウトすることによって、間接的に自分と同じ地域の友 達のことも明かすことになるということで迷いが生じることもあった。これは社会には差 別が残っているということ。

・部落問題を他人から与えられた価値観ではなく、自分自身の価値観と照らし合わせること で自然な受け止め方ができるような教育の在り方を考えていただきたい。

 

 

【質疑応答】

 Eさん(M小)…林さんが朝鮮中級学校との交流で感じられたことを詳しく聞かせてほしい。

 林さん(発表者)…差別を受ける立場の人は自分たちだけではないと感じた。自分も強く生きていきたい。朝鮮中級学校の人も強く生きていってほしい。背負っていかなければいけないという思いを朝鮮中級学校の人も感じていたと思うが、負い目としてではなく自分の力に変えていってほしいと思った。

 司会者…「『胸を張って生きろ』というような教師からの働きかけはやめてほしい」という発言の理由を補足説明してほしい。

 林さん…「胸を張って生きていこう」とか「自分に誇りを持って生きていこう」といことは生徒自身の中から発するものであって、決して先生から与えられるものではないということ。

 Fさん(I中)…学校側で作ってきたこと、その教育を受けてきたことをそれぞれの立場の話を聞いて、人権学習など個々の取組ではなく、「学校」という大きな環境のなかで人権づくりは進んでいくというメッセージだと受け止めた。自分に誇りや自信をもつのは部落民や在日だからではない。一人一人が自分の生きてきた道に対しておもうこと。すべての生徒がそう感じられる雰囲気を作るのが学校。

 水野さん(発表者)…「みんなと同じように扱って欲しい。」今もそういう生徒がいるのは事実。しかし、一緒にすることが差別。本人にはそのときわからなくても、必要性を感じて取り組んでいる。本人や保護者には理解してもらえるよう話していく必要がある。

 林さん…ほかの生徒と同じように扱ってほしいという思いが今の同和地区生徒にもあるそうだが、いろいろな場面で働きかけを自然な形でしてほしい。

 Gさん(H小)…「一緒にすることが差別」に共感する。在日として生きていく中で日本人と朝鮮人で感じることは違うと思う。私の場合(在日の立場で)は朝鮮人である自分が好き。自分が好きだから自分が朝鮮人であることに誇りを持っている。その姿が周りからは朝鮮人であることに誇りをもっているように見えるのではないか。

 Hさん(K中)…2つの報告は相対するものではないと受け止めている。アイデンティティーは自分で紆余曲折しながら、自分と対話しながら培っていくべきものである。「型にはめて型を破る」あてがわれたものに批判をしながら、、自分のオリジナルなアイデンティティーを形成していくもの。教育は刺激であり、いつかは本人によって崩されていくものではないか。

 司会者…林さんの報告は決してこれまでの同和教育の取組の批判ではない。学力を獲得し、進路の展望をもてたことは、ある意味同和教育の結果である。学力保障、進路保障は解放教育の必要条件なら、それを十分条件に変えていくためには何が必要かということで、水野さんの報告にはその一端が見られたのではないか。学校全体で取り組みながらも、必ず個人の変容をしっかり捉えていくということではないか。

 

V 藤原史朗さん

 「カムアウト」をキーワードに、教育現場での具体的な生徒との関わりを例にあげながら、学校教育の今日的課題をお話しされました。

・なぜ部落、外国人、障害者、だけが胸を張って生きていかなければならないのか

 部落の子ども達と同じように様々な背景を持つ子ども達に関わっていくことが必要。しか し、それが現場では、できていない。

・今日社会において教育の価値観が揺らいでいる。心の教育、人権教育、一方では学力低下、 ゆとり教育の見直し。「教育」とは何か考えなければならない。「教育=学習能力アップ」 「教育=体育」ではない。教育とは徳育を原点として体力と学力を培うこと。「一人でも そうじをしている友人の存在に気づける子供」「人の痛みがわかる子ども」を育てること が人権教育の始まりではないか。

・結局、ひとりひとりのカムアウトから進めるしかない。クラスの中には人に伝えにくい様 々な悩みを抱えた子供がいる。その子がカムアウトしたとき、クラスの同和地区出身の友 人や在日朝鮮人の友人のカムアウトに対して、後ろ指をさすようなことは決してないだろ う。自分の痛みと被差別の痛みを心の中で交わし合うためには、お互いのカミングアウト がいる。自分の一番痛いところを語り合うことで同情だけではない本当の人権意識が育つ。

・「人権教育は自分のふりかえり」それを出発点に、学習の場でも、生活の場でも様々な問 題に向かっていける。今生きている自分の課題を話しながら、差別問題を理解する。

・すべての運動においても出発点にカムアウトがある。世の中のすべての事象を関連しあっ ている中で捉え、なおかつ出発点はカムアウト。そこで検証し合わない限り何が世の中に 起きているか、どんな差別が横たわっているのかわからない。そして、我々が受けて返す 教師自身のカムアウトが求められる。

 

【質疑応答】

 Iさん(H小)…林さんの報告の内容から安易に過去の同和教育を肯定するのではなく、我々のこれまでの同和教育と対峙しなければならない。自分と照らし合わせて言える教育でなければいけない。受け止めて、反省のもとに教育の現場で考えていかしていかなければならない。

 Gさん(H小)…私は4月から市の小学校教員として採用されることになった。常勤講師として採用される。一生教諭にはなれない。藤原さんの話から部落問題を(在日である)自分の問題として考えていきたい。自分が常勤講師として採用されることも日本人の問題だと感じる。京都市の教員として、主体性をもちながらいつまで続けていけるか不安を抱えている。

 司会…解放教育、共生教育を今後どのように具体化していくかが問われている。

 

 

■アンケート

【学校関係】

・林さんの思いが胸にしみました。謙虚に受けとめたいと思います。発言してくれた李さん を支えられる一人でありたいと思います。

・藤原先生の人権教育の在り方について、ドンと私に、そんなもんでいいのかと投げかけら れた気がし、とても充実した分科会でした。

・林さんのお話は、自分の気持ちの中に、とても重い一石を投じたなぁという気がする。… 在日の生徒と関わることが多いが、それぞれにどんな思いを持ち、どんな背景を抱えてい るか、じっくり見つめ、個々のケースに合わせて関わりを持っていかなければならないこ とを再認識した。

・自分がやってきた同和教育がどのようなものだったか教え子と同じ年の林さんの意見を聞 きたくて参加しました。…差別される側ではなく、差別する可能性の高い子たちに何を伝 えなければならないのかと考えさせられました。

・林さんが立派な意見をお持ちになられたのも、現実をしっかり直視されているのも解放教 育の成果の一つと思います。

・内容は、学校(教師)の立場からと生徒からの立場での話で、たいへん勉強になった。学 んだことを他の人に伝えていきたい。

・人権教育がだんだんごまかしの内容になってきたような気がする。形だけの人権学習、遠 い存在の人権学習、何かが違うような気がする。この分科会で、私だけがそのことを感じ ているんやないんやという確信を得ることが出来た、と同時に初心に返り又やっていきた いと思った。ありがとうございました。

・自分の問題として迫ってくる内容でした。林さん、藤原さんのお話がとてもよかった。

・林さんの話の意味を分科会内でうまくまとめてましたか。一人一人が宿題として考える時 間がほしい。藤原先生の熱い語りに圧倒されました。

・洛南の実践は、地区の生徒の思いが見えて良かった。林さんに「部落にほこりを持て」と いう実践は批判されたが、ほとんどの学校では地区の生徒と部落について話し合うことす らできていないのが現状ではないだろうか。在日の生徒も含めて、カムアウトでき、受け 止めることのできる人間関係を構築することが人権教育の中心課題だと思った。

・今回は初めて部落出身者で同和教育を受けてきた、若い世代の方の参加がとても新鮮でし た。彼女の発言は、私にとっては重みのあるものでした。ストレートに正直に自分の体験 や感じたことを語ってくださったことに対して、部落解放運動を否定するものではないの で誤解のないように、という司会の方の発言が気になりました。意見があれば会場で意見 表明すべきです。それが、誤解なのか真実なのかはその場で討論すべきです。とにかく熱 い雰囲気の集まりでしたね。来年も話の続きが聞きたいものです。

 

【PTA】

・藤原先生の熱いお話にとても揺さぶられました。カムアウトの勇気を与えるのは、自己肯 定感であるのかなと思いました。経験したことのない痛みを理解できる人間を育てるのも 学校・家庭でなければならないと思いました。無知や無関心は、連鎖していくのではない かと思いました。

・他の集会とは違う空気を感じ、迫力というものを感じました。

・カムアウト…しかし、これも自分の中に痛みをもっていないと話せないし、気づくことも 無い。その経験があるというのは、つらいことだけど、人のやさしさもわかることができ るという素晴らしいものがある。

・今、内容を聞いていくに当たって複雑な心境です。自分自身、来年に向けて勉強していき たいと思います。

 

【行政】

・自分自身の痛みから人の痛みを理解することができる。そういうところから人間は、本当 に人権について心から理解し、大切に思うようになるのではないか。…今日は、自分自身 にとって役立ち、勉強になった集会であると思った。

・第7分科会に参加して本当に良かったです。パネリストの方や会場の発言者も有意義なメ ッセージを出しておられて、自分自身の内面を見つめることができました。来年も是非、 参加させて頂こうと考えています。

 

■最後に

 本年度は、林さんが自ら受けた同和教育に関して率直に語って頂きました。教師の一方的な思い(部落民としての誇りなど)に対して厳しい指摘もありました。しかし、林さんのような自立した考えを育てたひとつに解放教育が果たした役割もあったのではないでしょうか。(京都では、数少ない実践だと思いますが…)

 林さんの主張は、自然体で平易です。一言で言うと、部落の子だけでなく、在日の子やしんどい背景を持つ子にも同じように一生懸命関わってほしいということです。

 そして、部落民であることもアイデンティティーの一部なので、自然に受けいられるような関わりを持ってほしいということです。

 今集会での大切な観点は、カムアウトという言葉に集約されるのではないでしょうか。

 藤原さんからは、教師自らも己の立場や痛みを持って、子どもと対峙し、差別について向き合うことが人権教育の出発だと教えられました。

 部落や在日は、個人のアイデンティティーの一部かもしれませんが、そのことを大切にし、自然にカムアウトできる人間関係をクラス・学校で創りあげていくことが今後の課題だと思いました。

 来年も自らの実践や体験を持って、第7分科会に集えたらいいなと強く思いました。

 

 

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