トップ

基調

講演録 1分科会 2分科会 3分科会 4分科会 5分科会

      

第43回人権交流京都市研究集会

第5分科会

   「自由討議」

―わたし自身と差別問題―

 

 

分科会責任者 松田国広

司会 廣瀬光太郎

記録 町野覚

 

分科会責任者、司会から「第5分科会は、部落問題を始めとするあらゆる差別について、各自が立場を越えて本音で話し合う場である」との趣旨が語られた。

続いて中村一成(イルソン)さんが、以下の話題提供をした。

中村さんは朝鮮人二世の母親と日本人のダブルとして生まれ育ち、そして16年間、新聞記者をしてきた経験から、益々ひどくなっている日本社会の人権状況について語った。

 人権問題について同じような差別事象が繰り返され、どんどん悪くなっている。記者になって直ぐの頃は、人権問題に関わる私の書いた記事に対する批判は匿名で寄せられた。5、6年経った頃から名前を名乗って、口汚く批判する投書が新聞社に寄せられる様になった。以前は差別する人間も後ろめたく感じていたのが、今では差別を当然と考える風潮が出てきた。阪神淡路震災、オーム真理教事件、地方参政権、戦後補償の問題などを例に、人権意識が急速に後退していっている状況を語った。

高松支局に勤務した頃、水平社の高松差別裁判糾弾闘争を取材した。これは素晴らしい人権闘争であるが、当時の時代状況の中では「国民」の平等を求める運動であったと感じた。この後、水平社は皇国国民運動に入っていく。今日では国民外も含めた平等が問われている。国民国家の中の「非国民」の人権をどう考えるか。旧ソ連やフランスの親ナチ政権などで、国籍の剥奪が人権抑圧の手段となっていた事例を述べる。在日に対する一方的な国籍剥奪が、如何に人権を抑圧していったか。医療、社会保障、年金制度から排除していったか。ヨーロッパの右翼、ネオナチなど民族排外主義を煽るグループの理想は、日本だそうだ。それほど日本は、スマートに外国人を管理していると映っている。

昨年12月に人権侵害救済法の法務省案が出てきたが、現行法でも救済できるような案件しか救済できない条文に後退している。

以上の問題提起に対し、会場からは次のような質問や意見が寄せられた。

○在特会の動きやネット上の差別書き込み等を見ると、若い世代の人権意識を疑問に思うとの意見が述べられた。また、若い人たちは付和雷同的に群れているが、京都の朝鮮学校に対する在特会の事件で逮捕者が出るとサーッと引いていく現状が指摘された。

○学校における人権教育が大切と思うが、一方で現在の状況を見ると無力感を感じるとの意見が述べられた。

○確信犯的にシツコクやる人間がいる一方、ワーッと集まって、サット引いていくネット世代と言うか、アニメ世代と言うか、非活字人間が群れている。

 

また新聞、テレビなど今のマスコミのあり方が、議論になった。

○マスコミは多数派の常識に依拠する傾向がますます強まり、ネット世論調査で得られる多数派の常識を煽ることがビジネスになっている。

○テレビのワイドショーなどで、右翼オピニオンリーダー(差別する方)はその常識をスパッと言い切る。一方、左の人はネット世論の常識に対し部分的に疑問を呈するだけで非常に回りくどい物言いになっている。

○差別を扇動し、群れている人たちにはコアになる思想がなくて、社会に対する不満を弱い者にぶっつけ、スーとした、みたいなものを感じる。

○橋下徹の維新の会は、明治維新のように幕府を倒そうとの動きではなく、自分が幕府になろうとしている逆の動きだ。社会の空気がギスギスしていて、憤懣が充満している。

 

 在日外国人の現状について質問があった。

○特別永住資格を持つ人が、毎年5千から一万人が日本国籍を取得して数がどんどん減って、今では40万人程度になっている。滋賀県や愛知県、関東の工場地帯ではブラジル、中国出身などの新しい外国人が多い。一方、京都や大阪では産業面からの外国人の流入が少なく、特別永住資格を持つ人の数がまだ多い。

 

 韓国の中学校との交流について報告された。

○西院中学の先生から、韓国の姉妹中学と交流し、修学旅行で互いにホームステイするなどの交流を12年間積み重ね、生徒も父兄も相互理解を深めている。京都では在日、あるいは韓国・朝鮮にルーツを持つ生徒の割合が二番目に多い中学である。

一学年100名ぐらいだが、パスポートが違う生徒が3人ぐらいの割合でいる。家庭訪問して修学旅行の準備をする中で、先生の人権感覚も大きく育った。

修学旅行の感想文で、日本国籍になって永い家庭の子供たちも「おじいいちゃんが韓国人」とか感想文に書いてくる。書かなければクラスの皆が日本人と思っていたのに、そんなことが書けるように育ってきた。学年の皆に対する信頼感が書かせていると思う。

また、ホームステイを始めて6年になるが、生徒や父兄だけでなく校区内の地域も変わってきた。当初は様々な軋轢があったが、今ではホームステイした韓国の中学生と分かれる時に涙を流している人たちがいる。

○この報告は会場から大きな関心を呼び、取り組みの経過や現状、苦労した点などに多くの質問がでた。また、在日の生徒のカミングアウトについて意見が交わされた。

○中村さんは、在日一世の祖父について存在を隠されてきた自分の経験から、中学、高校生の時期にカミングアウトするのは良いことだと思うと語った。

以上、分科会の趣旨どうり、特に取りまとめることをせず、様々な意見が出された。

 

 

戻る