ごあいさつ

開催要項

分科会紹介

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第34回 第六分科会

第六分科会 【解放教育T】


            解放教育T

        〜同和教育の普遍化を図り、自己実現に向かう

                    学力保障、進路保障をめざして〜

 

  日 時  2003年2月15日(土)午後1時30分〜4時30分

  場 所  国際交流会館 イベントホール

  テーマ  解放教育T

       〜同和教育の普遍化を図り、自己実現に向かう学力保障、進路保障をめざして〜

 

実践報告

       @1へのこだわり〜太秦「みどり学習」を通して

         中村 博美(京都市小学校同和教育研究会)

       A「確(しっか)りと学習する」ということ

         山口 基之(京都市中学校同和教育研究会)

 

パネルディスカッション

       コーディネーター  岸野 俊彦(京都市中学校同和教育研究会)

       パネリスト      中野 陸夫(大阪教育大学教授)

                   瀧澤 公子(松原市立布忍小学校)

                   松本 威雄(京都市小学校同和教育研究会)

 

       記  録       笹部 佳則(京都市小学校同和教育研究会)

       担  当       田中  健(京都市小学校同和教育研究会)

 

                                      参加者数 179名

 

 

討議の柱として、教育に関わる様々な場で、教育改革によって子どもたちの学力がどうなるのか、どうすれば学力を伸ばすことができるのか議論されています。

本分科会では、教育改革が真に同和地区の子どもたちすべての学力向上そして進路保障へと結びついていくためには、学校が何をめざし、どう動いていけばよいのか、また家庭や地域はどうあるべきかを考えていきました。

 

分科会の前半では、小学校中学校それぞれから、子どもたちの学力向上、進路保障の取り組みの実践を報告しました。後半は、パネルデスカッションの形式をとり、他府県での実践等も加えながら、すべての子どもたち、とりわけ課題の多い子どもに対して真の学力をいかにつけていくかを考え、明日からの実践に生かせることができるように考えました。

2校の実践報告の大きな項目は次の通りです。 

 

実践報告1

 ◎1へのこだわり〜太秦「みどり学習」を通して〜

中村 博美(京都市小学校同和教育研究会)

学校教育目標

一人ひとりが光り輝く子どもの育成

〜子どもから学び、子どもに届く教育実践を通して〜

○『大好き 太秦』といえる学校づくり

○1へのこだわりとは

○1を育てる太秦みどり学習

 1.太秦みどり学習とは

2.千人の中の一人にこだわる取り組みを通して

 

実践報告2

◎「確(しっか)りと学習する」ということ

山口 基之(京都市中学校同和教育研究会)

1.はじめに

 

2.「よくわかる授業」をめざして

○ 基礎学力を高める取り組み

○確りと学習すること

 

3.センター学習の取組

○センター学習の役割

@スタデイルーム

A「体験教室」「自習室」

B「話し合い活動」

○地域に開かれた学習施設

○先輩を迎えて

 

4.成果と課題

 

 

助 言

田中 健(京都市小学校同和教育研究会)

 

 本第6分科会では、学校教育として、同和地区の子どもたちの学力保障・進路保障を図るために、同和教育から人権教育への視点を持って同和地区の子どもたちの学力を高める論議を積み重ね実践して参りました。

 本年度、新教育課程の実施、学校週5日制の完全実施と「地対財特法」の失効とが重なる等、子どもたちを取り巻く教育環境も大きく変化してきております。 そのような状況の中、一人ひとりの児童・生徒が個性を発揮し、自分の持っている可能性を最大限開化させるために、様々な取組を日々展開されている小学校・中学校からご報告をいただきました。

 最初に太秦小学校からは『1へのこだわり〜太秦「みどり学習」を通して〜』というテーマでご報告頂きました。

 太秦という地を生かし、外国人教育として、韓国や朝鮮の人に対する差別の解消に向けての実践、あるいは、「人と環境にやさしい街『太秦』」をテーマにした「太秦みどり学習」の実践は、人権文化の構築に向けて大きな成果を期待できるものと思います。また、サブテーマに、教科学習の基礎・基本と響き合う教科・総合的な学習を通してとありますように、教科学習との相乗効果を図った取り組みでもあり、各教科の基礎・基本の確かな定着にも成果を挙げるものと考えられます。報告にもありましたように、太秦小学校は、京都市立小学校は179校あるわけですが、唯一1000人を越す児童の在籍する小学校です。子供一人ひとりが『かけがえのない存在』であり、千人の中の一人に徹底的にこだわり続ける教職員集団、すなわち『チーム太秦』の素晴らしさであると思います。

 登校した児童に出会った教職員が、しっかりと子供の瞳を見つめ挨拶を交わすことから始まり、放課後、部活動での声掛けに代表されるように、担任からの情報を共有しながらその場、その時の一人を徹底して見、適切な声掛けを行う。毎日がその実践の積み上げなのです。

 『太秦みどり学習』についてのお話がありました。「自然に優しい」「人に優しい」子供の育成を目指して総合的な学習をそのように名付けて取り組まれています。『太秦みどり学習』で身に付けた学び方の基礎・基本と教科学習で身に付けた基礎・基本の学力が絡み合って、生きてはたらく力となっていくものと思います。今日は2例の実践事例を報告して頂きましたが、6年生での実践、5年生での実践を通してそれぞれの児童の確かな変容を見ることができます。今後もさらなる充実・発展を期待したいと思います。

 次に高野中学校からは、『一人ひとりの自己実現を目指した取り組み〜確(しっか)りと学習することを通して〜』というテーマでご報告頂きました。

 『分割授業』による少人数学級での一人ひとりを大切にした実践。そしてその発展として「個人選択制習熟度別分割授業」として個々の生徒の学習意欲を喚起し、学習過程でのつまずきを見逃さない体制で実践されています。

 さらに生徒一人ひとりの興味関心に応えるために新たな選択講座の開設により、基礎基本の徹底を図る講座から、生徒の興味関心に即した講座まで、幅広く選択できるように工夫されています。卒業後までも見据えた中で、自らが強い意志・意欲をもって主体的に学ぼうとする姿勢を培うことに重点をおいた取り組みがなされていますが、それは『確りと学習する』という言葉に象徴されています。

 高校への進学状況は大きく改善されましたが、昨今では奨学金制度の変化から、進路が定まらない生徒が増加する傾向にあり、以前からの課題に加え、これまでに見えにくかった課題も見えてきています。

 本研究集会が積み上げてきた確かな学力観のもと、同和地区児童・生徒を中心に据えた一人ひとりを徹底的に大切にする同和教育の普遍化を図る実践を今後とも積み上げていきたいと考えています。

 本日の二校の報告をご参会のみなさんがそれぞれ咀嚼し、今後の教育活動に生かしていただければ幸いです。

 

 

パネルディスカッション

 ◎ テーマ「教育改革は学力格差を救えるのか」

 

   コーディネーター  岸野 俊彦(京都市中学校同和教育研究会)

   パネリスト      中野 陸男(大阪教育大学教授)

               瀧澤 公子(松原市立布忍小学校)

               松本 威雄(京都市小学校同和教育研究会)

   記  録       笹部 佳則(京都市小学校同和教育研究会)

   担  当       田中  健(京都市小学校同和教育研究会)

 

 

岸野  自ら学ぶ意欲、社会に適応できる力といった新しい学力観に基づいた授業の組み立 てをしているところだが、果たして確実に学力が身についているかという不安がある。

中野  だいたい10年間隔で学習指導要領の改訂が行われており、そのたびに議論になる  のだが、今回の場合は以前とは少し様子が違う。典型的なものに円周率についての話題  があるが、そのように本流とは違う議論が多く話題に上っているようである。「生きる力」の  ひとつは、単純な言い方をすると知識の集積によるものがあるといえる。また「生きる力」  は複合的な問題であるが、学校はどの部分で責任を負わなければならないのか、という  点で、今日のテーマの大きな柱となると思う。

岸野  今回『学力低下』というテーマを設定したのは、学力低下というものが実際どういうも のなのか、また、それを乗り越えていくためにはどうすればいいのかを考えていく中で、話  が深まっていくと考えたからである。

中野 (実態調査から)89年の調査の目的は、さまざまな取組の結果が学力保証の目標に到 達しているのかを調べ直すことが目的であった。これ以降の調査で私が常に問題にしてき たのは学力の傾向の変化である。以前にはなかった傾向として2極分化が起こってきてい るということ。学力保障という観点からどこに問題があるかを探っている。仮説として、学力 は低下傾向にあるといえる。

岸野  1989年と2001年の調査から全体として平均点は下がっているといえるが、通塾、非 塾を比較すると特に非通塾で差が大きく出ている。

中野  生活実態が子どもの学習状況に影響を起こすということは伝統的にあるといえる。し かし、影響であってイコールではない。ベースをどこにおいているかということで、この結果  のとらえかたは大きく変わってくる。これだけでいけば、塾に行けば問題は解決することに なるがそうではない。問題解決の一つの手立ては教育改革といわれているものの中での授 業改革に成果を出すことができれば状況を変える可能性はそこにあるといえる。授業改革 こそが大きな課題ではないか。

岸野  ここで、格差を乗り越えようと実践している布忍小学校と朱雀第四小学校を紹介した  い。

瀧澤  布忍小学校は今年創立130周年を迎えたが、古くから同和教育、人権教育を学校教 育の根幹に据えて実践してきた。校区のPTAの合言葉として『子どもはまちのたからもの』 が示す通り校区全体が子どもを大切にしようとする風土がある。

  本校の学力向上に向けての取り組みの柱として『国・算を中心とした基礎・基本の学習内 容を総合的に学ぶ授業改革』と『学力向上の効果測定』を中心に報告したい。

 布忍小学校では個別学習、自己選択、自己表現の3つのキーワードを大切にして取り組み を進めてきた。

  個別学習では習得学習ノートを活用したマスタリーラーニングという授業形態を算数の時 間 に入れてきた。自己選択による発展学習や補充学習の実施については、子どもの実態 から、自分から進んで学習に向かう力をつけるために、個に応じた学習指導のカリキュラム を行った。今日学んだことをしっかり身につけるために、補充学習や家庭学習がもっと必要 であろうと話し合われた。

 算数科ではそれまでの発問や導入の工夫などの取組による一定の成果を基礎に、少人数 授業による多様な学習指導方法や形態を活用した授業改革に踏み込んだ。

 『数量・図形についての基礎的な知識と技能を身につける』『多面的にものを見て、論理的  に考える力をつける』『算数を実生活で活用し、進んで問題解決しようとする態度を身につ ける』の3点を学校全体のものとしていった。

 一斉指導をコンパクトにして、子どもたちが個別に考え学習する時間をとり、一斉指導でま とめる『マスタリーラーニング』という流れで授業に取り組んでいる。

 ちからだめし→学級分割指導→チェックテスト→コース選択グループ指導(じっくりコース・ど んどんコース)→単元テストという流れである。その結果、5分と集中が持たなかった児童が 自分のつまずきを見つめるようになってきた。

 習得学習ノートというマスタリーラーニングに対応した学習材を用いているが、子どもたちが 学習の見通しを持てるということや、既習事項を確認しながら学習に取り組めるという特長 がある。

岸野  先ほどの『学力低下の実態』の中では、学習意欲の低下ということも言われている。 ここ10年間の間に『勉強しない』という回答が増えているとグラフにも表れているが、意欲を 高めるという点に重点をおいて取組を進めておられる朱雀第四小学校の松本先生に、特に 自由研究の指導などについても触れながらお話しいただきたい。

松本  朱雀第四小学校では『心豊かなたくましい子』『自ら学ぶ子』を育てようと教職員一体 となって取り組んでいる。私は教師として、なによりも大事なのは、子どもたちが授業中、意 欲的に学んでいる姿があるかどうかだと思う。本校では理科を中心に、自ら学ぶ子を育て  ようと取り組んでいる。『理科嫌いの子が増えている』という新聞記事を目にした覚えがあ るが、本校児童の姿を見ると授業中いい表情で学習に取り組んでいるなと感じている。

 そんな姿を見るために本校で大切にしてきたことは、まず、子どもが自然に親しみ、知ると いうことである。体験不足な子どもたちや自然に関わる機会が少ない子どもたちにとっては 何よりも大切なことではないか。教材教具の準備などは当然として、本校では動物ランドや 手作りのビオトープあかしあの森を整備して、子どもたちは動物や植物に直接触れる中で  多くの不思議に出会いさまざまなことを知ることにつながっている。また、子どもが自然事 象に十分浸り、自分の思いやこだわりを見つけることができるような導入を工夫している。

 二点目として子どもが見通しをもって学習できる思考の流れを大切にすることである。焦点 化した児童の考え方や反応を考えて必要に応じて複線型の授業展開を工夫している。

 三点目に自分の課題にこだわりを持って追求することを大切にしている。学習に主体的に なれる姿をと考えている。このことは、自ら考え、そして判断して自分で開発していく力を育 てるうえで大切だと考えている。

 四点目に話し合い活動の充実と表現力の育成がある。特にノート作りに工夫している。課  題、自己評価の欄のほかに予想や方法、結果、考察など自分で書き込むスペースを設け ている。

 以上のような普通授業の充実を特に大切にしているが、他に発展として自由研究の指導に 取り組んでいる。親子自由研究学習会を設け、保護者が子どもの学習に関心を持ち、支え るためにどうすればいいのかを共に考える場としている。しかし、自分一人で研究を進める ことが困難な子どもや家庭の支えが難しい子どもには学校や家庭訪問で教師が関わり研   究をやりきらせるように努力している。

 以前、受賞した子どもの母親から「本当に、ようがんばったんやなぁ」という言葉を聞いたと き、学ぶことの喜びや努力することから生まれる力の大きさや大切さを、子どもと親が一緒 に経験できたことは大切な部分だと感じた。

岸野  今、2校の具体的な取り組みを聞いて中野先生いかがでしょうか。

中野  わかることとできることの統一、つまり、わかることとできることの間にどういったプロ セスを置くかが、授業改革のひとつの大きなポイントになると思う。

 子どもがやる気を持つポイントとして、「おもしろかった」「できるようになった」ということがあ る。両校の取り組みの共通点として、知的関心を揺さぶっていることが挙げられる。そして、 の取り組みに合わせたノートという道具を持っていて、自分の知的関心の充足度や学習の 路を振り返り、自己評価や他者評価ができるという共通点を持っているといえる。

岸野  本分科会のテーマに「同和教育の普遍化を図り」とあるが生活環境の実態が厳しい 子どもたちに学力低下がより著しく見られるという話をしてきた。同和問題との結びつきとし て生活実態が厳しい子どもたちがまさしく同和地区の子どもたちではないか、ということでパ ネルディスカッションのテーマを設定した。京都市の調査として同和地区の人口の激減が見 られる。年齢層として今回の調査では年齢構成からみると高齢化社会ともいえる。そういう 背景からも生活実態の厳しさが象徴的に表れているともいえると思う。両校の取り組みとも 全ての子どもたちに対しての取り組みであるが、生活実態の厳しい子どもたちにより有効に 働いているのではないかということである。そこで、布忍小学校の教育測定やマスタリーラ  ーニングと習得学習ノートなどの成果についてもう少し説明をお願いしたい。

瀧澤  算数科における診断テストを授業改革以前、以後で比較すると、正答率80%以下の 児童が減っていること、正答率90%以上の児童が大幅に増加したことが数字の上ではっき りと出ている。この10年間、少人数授業やマスタリーラーニングの中で焦点化した取り組み を進めてきたが、正答率80〜90%の不安定層にいる児童がどれだけ学習意欲を持って取 組めるかが、授業の流れを変える上で重要になってくる。どの児童にポイントを絞って学力 向上に取り組むのかというのは、とても大事な視点となる。

 学期末には具体的なデータを示しながら、学年で児童の学習の様子を話し合う。『この子は こんな感じだった…』で終わらせず、授業や指導に返していく意味での効果測定を布忍小学 校では国語と算数について行っている。算数では30年前より、国語では十数年前より自校 で作った診断テストをもとにデータを作っている。

岸野  朱四校では、将来を見越して、進路展望を広く持ちながら学習に取り組むための独  特な取り組みをされているそうだが、その点についてお話いただきたい。

松本  本校と本校児童が進学する中学である朱雀中学、西ノ京中学、そしてスーパーサイ エンスハイスクールにも指定されている堀川高校の4校で連携してリンケージ(学校間交  流)の取り組みを続けている。同和地区児童をはじめとする全ての児童に理科学習における 関心を高めること、中学や高校への進学意欲を高めることをねらいとして始まったものであ る。小学生児童が中学・高校の実験教室に参加する『ミニ科学の祭典』や、堀川高校の先 生が本校を訪れて理科に関する話や実験をしてくださったり、高校生が進路や将来のこと  などについて話してくれる『理科チャレンジスクール』と、年2回催している。子どもたちにと って自分の将来を考えるよい機会となっている。この取り組みが生きて同和地区児童が自 分の進路に対する展望や夢を持って進学していけるよう、これからもこの取り組みを続けた い。

岸野  今日、この会場に朱雀中学、堀川高校の先生も来られていますので、フロアーよりお 願いしたい。

朱雀中学  小・中・高のリンケージの中での中学校の役割ということでお話したいと思いま  す。中学校としての理科における科学的なものの考え方、興味関心をさらに高めていく、  そして、それが進路展望につながることをめざしている。小・中・高の連携を通して地域の  子どもたちや地域の方々に理科の楽しさやおもしろさを知ってもらうこと、また、地域の小  学生、中学生、高校生のつながりを強めていくことをねらいとしている。最初の頃は教師  主導であったが、軌道に乗り始めると中学生が講師をする形になってきている。特にリン  ケージの経験のある朱四小の卒業生に小学生に積極的に関わっていこうとする意欲が高  いように思われる。内容については生徒と共にアイデアを出し合いながら進めている。こ  れらのことが科学的な考え方につながり、意欲や探究心を高めるきっかけになっていると  考えている。チャレンジスクールの発表・報告については2年生の受賞者が担当してい   る。やはり朱四小卒業生が多いが、母校の先生方に自分の努力をみてもらいたいとい  うことも励みになっている。これらのことも小学校の取り組みの成果の一つといえる。た  だ、リンケージが理科だけの学ぶ力にとどまっていないか、他教科との連携を含め、より  主体的に考える力にどうつなげていくかが、中学校としての課題である。

堀川高校  堀川高校は、京都市立高等学校21世紀構想のパイロット校として位置付けられ  ている。様々な理念の具体化を行うための研究を続けているが、その一つに『教育センタ  ー機能による実践的教育研究』が挙げられている。そこで平成9年より小・中・高の連携  を始めている。実験教室の目的として小学生にいかに科学の楽しさを伝えるかというとこ  ろであるが、高校の教員としては、ややもすると、目先の受験に備えて教授する場面も多  く、小学生に向けた内容については、試行錯誤しながら取り組んでいる。一方、高校生は  『探究基礎』という専門科目もあり、アイデアも豊富に持っているので楽しくやらせてもらっ  ている。自然科学分野での興味関心を伸ばすことと同時に、同和地区児童・生徒に進路  啓発の機会と考えている。高校生からの生の声の効果は大きいと思う。さらに今年から  は、高・大の連携も考えている。

岸野  ここで、ご意見やご質問などあれば出していただきたい。

久世中  『学力低下の実態』という本のデータをもとに学力は低下しているという前提で今日  の話は進んできたと思うが、知識重視の古い学力観の時代のデータと、表現力や思考力  を重視する中で古い学力観に基づいた調査結果を比較して『学力は低下した』と決め付  けて議論を展開するのは危険な気がする。そのあたりの解釈について教えていただけれ  ばありがたい。

岸野  いい質問だと思う。その議論についてはこの紹介した本の中でも触れられているし、  いろいろな場で議論されていることである。学力観自体についてもふれていかなければな  らないが、そのあたりについて中野先生にお願いします。

中野  89年の時に『学力実態調査』と銘打っているが、それでは『学力』とは何か、という議  論が出てくる。そこで、その議論を避けるために、『学習理解度』という言葉を使って、主と  して教科書の内容をどの程度理解しているかを言っている。だから『観』ということではな  い。その後の調査についても教科の学習理解度ということで基本的には変わっていない。  生活意識調査については部分的には付け加えられているが、学力観のちがいによる問  題が起こる課題設定はされていないということから、出てきた数字の範囲内において学力  は低下していると認めざるを得ない。

岸野  会場より『同和教育の視点はどうなっているのか』という質問が届いていますが、例え  ば、家庭の学習環境の整い方ということと、「家庭学習をしない」や「板書を写さない」の割  合には大きな関連が出ている。先ほどからの話でも理科だけをどうにかしたいということ  ではなく、学習意欲をどう高めるかという話であることはおわかりいただけると思う。自由  研究で努力した子どもの姿について、松本先生からお話いただけますか。

松本  夏休みの自由研究で100枚近くのレポートを独力で書いた子どもがいたが、中学校で  は英語にも大変興味を持つようになった。家庭的には支えの乏しい環境だったが、中学、  高校と進み、英語の力を伸ばしたいと留学も経験し、今春には東京の大学へ行くというこ  とを聞いている。

嘉楽中 前半から『同和教育の普遍化』ということにこだわって聞いてきたが、後半のパネル  でよくわかった。習得学習ノートの話の中、一斉授業から個別授業へ移る時に5人位ぴた  りと止まる。この中に部落の子どもがいるかもしれないし、いないかもしれない。しかし、こ  のことで、『同和教育の普遍化』ということがよくわかった。中野先生の『わかることと、でき  ることの統一』という言葉にまさしく今までの部落の子の姿が重なり、この実践が『同和教  育の普遍化』に焦点が当たっていると思った。今まで、センター学習などで取り組んできた  ことを授業の中で当たり前のこととして取り組んでいくことが普遍化されることだ、という感  想を持った。この5人を大切にすることが、一人ひとりを大切にする教育だと思う。明日か  らまた、現場でこの視点を確認したい。

中野  今日の2校の共通項として小・中・高の連携が挙げられる。さらに地域との結びつき  という点でも似ている。進路を考える点でも連携の中で捉えられている。今後の教育実践  の中心軸をどのようにおいて進めていくかということで貴重な報告やご意見をいただいた  と思う。

岸野  これでパネルディスカッションを終わります。