トップ 1分科会 2分科会 3分科会 4分科会 5分科会 6分科会 7分科会 8分科会

                    

 第35回部落解放研究京都市集会

第2分科会  差別事件の実態と市民啓発 

部落差別の今日的状況と差別をなくすための取組

                                 司会:山田義春(部落解放同盟京都市協議会)

                        みやこめっせ特別展示場A ☆ 参加者数=179人

 ■ 講 演

 テーマ「インターネットと人権 人権情報ネットワークふらっとの活動から」

               講師:吉村憲昭(ホームページ「人権情報ネットワークふらっと」制作・管理統括、

                                部落解放同盟大阪府連合会書記、解放新聞大阪版編集長)

■ シンポジウム

 テーマ「部落差別の今日的状況と差別をなくすための取組」

  シンポジスト:吉村憲昭・安田茂樹(部落解放同盟京都府連合会書記次長)

      報告1「京都における部落差別事件の現状と課題」

                 仲島隆夫(京都教育大学名誉教授、ふしみ人権の集い実行委員長)

      報告2「伏見区における差別事象とふしみ人権の集いの活動」

   コーディネーター:西田 晋(第三錦林小学校教諭)

* 会場では、最近の差別事象事例のパネル(部落解放研究東山実行委員会作成)を展示した。

 ■ 講 演

 テーマ「インターネットと人権 人権情報ネットワークふらっとの活動から」

     講師:吉村憲昭

1 はじめに

 ニューメディア人権機構とは、インターネットを中心とする新しいメディアを活用しながら人権運動を進めていこうということで設立された組織で、官と民が一体となってインターネット上の人権確立に向けた取組を進めている。

2 インターネットとは

<インターネットの主な機能>

 インターネットの仕組みや機能は多岐にわたる。次の3つが代表的な機能。

  @ 電子メール

  A ホームページ

  B 掲示板

<インターネットの利用者の人口の推移とデジタルデバイド>

 総務省通信利用動向調査(2003年3月)では、2002年に日本でインターネットを使っている人は、6942万人で、2人に1人はインターネットを利用していることになる。こうした急速な広がりの中で問題になっているのがデジタルデバイド(情報格差)。大阪の実態調査(2000年実施)の結果では、パソコンの所有率やインターネットの利用率は、日本の平均が同和地区に比べてほぼ2倍になっている。これは同和地区と一般地域との関係だけにいえるのではなく、その世帯の収入によって格差が生まれている。

3 インターネットの光と影

<インターネットを利用した犯罪やトラブル、ネット差別>

 こうした変化の中でインターネットを利用した犯罪やトラブル、ネット差別も増えている。国民生活センターに寄せられたインターネットに関するトラブルの相談件数は、1995年に60件であったものが、2002年には4万件を超えている。

 インターネット上の巨大な掲示板では、社会的に大きな問題になった事件についての差別的な書き込みのほかに、被差別部落の地名を流すもの、芸能人やスポーツ選手、政治家などが被差別部落の出身だとか在日コリアンだという情報を流すものもある。また部落民や在日コリアンを抹殺せよといった差別扇動といったもの、どこどこの誰々が被差別部落出身だという攻撃を加えるものなどがある。また、「奈良県密集特殊部落」というホームページでは、奈良県内の被差別部落の地名の一覧が書かれていた。

<ネットの「匿名性」とプロバイダー責任法の成立>

 インターネット上の差別では「匿名性」という問題がある。インターネットの世界では、加害者と被害者がお互いに顔も名前も知らないということがままある。インターネットではプロバイダーという通信事業者を介して接続することが一般的であるが、プロバイダーは憲法で保障された「通信の秘密」を守る義務があり、不用意に開示すると今度は加害者の方から訴えられる危険性もある。

 人権侵害が多発し放置しておけないという状況の中で、「プロバイダー責任法」という法律ができている(2002年5月施行)。これはネット上での誹謗中傷やプライバシーの侵害を防ぐことを主な目的としている。この法律の施行以降、被害者の訴えにより、加害者=発信者の住所や氏名を開示請求できるようになったが、この法律では規制できない事例として、「部落地名総監」のように差別する意図をもって地名を流す行為がある。

<情報教育>

 これからインターネットの利用率がますます高くなることが考えられる。そうした中で学校教育の中でも情報教育が進められているが、まだまだパソコンを使用できるようにするための教育にとどまっている。インターネットも使い方次第では凶器になるわけであるから、情報教育においては、モラル教育が必要であり、小学校や中学校の早い段階で、しっかりと子どもたちに教えることが求められている。

<ネット差別の防止>

 奈良県ではじまったインターネットステーションという取組では、掲示板で横行する差別書き込みを、奈良県の全47市町村から150人ほどの人が出て、週に何回か部屋に集まってホームページをチェックしてその削除を求めている。

 

■ シンポジウム

 テーマ「部落差別の今日的状況と差別をなくすための取組」

 ●報告1「京都における部落差別事件の現状と課題」

  報告者 安田茂樹

<結婚差別の事例>

 Aさん(女性)と結婚する意思のあるBさん(男性)の父親が、Aさんの関係の戸籍謄本をBさんに示して、Aさんの父親が被差別部落出身であることを理由に結婚に反対した。また、その父親は、Aさんの母親に対しても「あなたには問題はないが、あなたの連れ合いのお父さんに問題がある」という発言をした。

 AさんやAさんの母親の関係の戸籍謄本は、いわゆる8業種の一つの司法書士が職務上取得したものであった。AさんとAさんの母親が個人情報保護条例に基づいて自己の戸籍謄本を請求した文書の開示請求をしたところ、4箇所の区役所で戸籍の請求が行われていたことが判明したが、誰が取ったか分からないように請求者の氏名等が黒塗りで公開された。最終的には市が当該司法書士の同意をもらって司法書士の氏名が開示された。

<問題点>

 司法書士がAさんやAさんの母親の関係の戸籍謄本を取得したことは、明らかに身元調査であること、当該戸籍が取られた理由が裁判とか登記に使うためとされており、部落の人の出自を暴くために取ったとしていないこと、京都市の個人情報保護条例では、戸籍謄本を誰が取ったかの開示を求めても、すんなりと明らかにしていただけるようになっていないということなどの課題がある。

 

 ●報告2「伏見区における差別事象とふしみ人権の集いの活動」

  報告者 仲島隆夫

<伏見における差別事象>

 伏見における最近の差別事象の内実は決して見過ごすことができない問題を含んでいる。何度も執拗に僭称語を書き連ねたり、また同和地区の市営住宅のエレベーターに部落差別にかかわる僭称語を書き連ねるなど。また、落書の中には「死ね」という言葉も使っており、差別者は、人々を抹殺するような危険な考えをもっている。こうした行為をする者を特定はできないけれども筆跡を見る限り同一人物がやっていることが分かる。

<差別事象の背景にあるもの>

 過去の差別行為者の例を見ると家庭や職場等で相当抑圧されていたということがあり、不満の捌け口として差別行為をしたということがある。差別行為が絶えないということは同和教育に対する姿勢に地域差があったり、あるいは教師の指導力に差があったりして、不徹底なまま今日まで推移してきたと考えざるを得ない。

<ふしみ人権の集いのねらい>

 ふしみ人権の集いのねらうところは、集う人々同士、また講師と聴衆の交流をとおして人々の視野を広げるところにある。

<ふしみ人権の集いの歩み>

 1995年にふしみ人権の集いの前身の集いが発足し、2度の名称変更を経てふしみ人権の集いとなった。1999年度以降は年3回の学習会をもち、年度末に総括集会としての人権の集いを開催してきた。年度末の人権の集いでは、2000年度の第6回の集い以来、地元文化である竹田の子守唄の伝承と発展に結びつき、そして人権文化を実感できる公演を開催してきた。

 実行委員会には、発足当初より企業を中心とした伏見区人権啓発推進協議会が参加し、今日では各界にわたるおよそ280の各種団体が参加し、企業のほか、地域女性会をはじめとする区民の各種組織、教育、保育関係機関、行政等が対等な立場で人権問題解決のための取組を進めている。

 差別事象は重大な人権侵害である。これを根絶するため、ふしみの人権の集いにおいては、「人権文化のまちをひとりひとりの心から」をテーマに様々な学習活動を展開し、人権尊重の輪を広げ、人権文化のまちづくりを進めてきた。

 

 ●会場からの質問・意見とシンポジストによる回答

<質問・意見>

  ―インターネットを利用するうえで、個々のモラルが問われることをあらためて感  じた。インターネット上の相談はメリットもたくさんあると思うが、反面デメリット  や限界もあるのではないか。

吉村 メリットとはインターネットが時間も距離も越えて気軽に書き込みや相談ができること。ネット上の匿名性は敷居の低さにつながる。これが一つのメリット。限界は、メール等文書のやり取りだけになるので、相談されている人の表情が見えず、直接会って話をするのとは違って、相談の内容を含めてつかみにくいこと。このため、ニューメディア人権機構では、専門家の人にも立ち会っていただいて面談で相談を受けることもある。また、インターネットを通していろいろな相談機関や団体とネットワークができているので、そこの専門機関の協力で解決につなげられる場合も多い。

<質問・意見>

  ―人権尊重の大前提である命の尊厳ということについて国民の意識、特に若年層の  人権意識が希薄化しているような気がするが、どうすればよいのか。また、ふしみ人  権の集いを通して参加されている方々の意識はどのように変わってきたのか。

仲島 人権を守る、生命を守るということを基本にした教育を徹底する以外にない。職場における人権尊重、学校における差別のない豊かな人間関係、家庭における一人一人の家族成員を大切にするような状況を作っていくことに尽きると思う。

 集いを通してどのように変わってきたかについて、まずスタッフは、年々会議を重ね、また聴衆との接触を通して、自分たちも教わっていくという面がある。また、学習会や集いの後でアンケートを取って毎回分析しながら進めていっているが、集う人々とのいろいろな接触を通してこれから人権に関して真剣に考えていくという姿勢になったというアンケートや、今後の日常生活の中で人権を根底においた生活をしていただけると信じることができるアンケートにも出会うことができた。

<質問・意見>

  ―差別事件はそれを行った人の個人的な問題という気もするが、市民啓発を行う必  要性や大切さについてはどうか。もう一つは、結婚差別の問題で事実確認の途中とい  うことだが、現時点で差別を受けた女性Aさんの直接の相手であるBさんの動向はど  うか。

安田 士農工商穢多非人という江戸時代の身分は、明治4年の解放令によりなくなるが、明治以降に作られた壬申戸籍の中には新平民とか穢多などの形で残されていく。戦後、部落解放運動は、壬申戸籍が差別であると、まさに身元調査の項目が書いてあることが問題であるとして戦いをして壬申戸籍を封印していった。その後、戸籍では調べられないということで、今から28年ほど前になるが、いわゆる部落地名総監という被差別部落の地名等が書かれたリストが企業の手によって売られ、これをたくさんの大手の企業が買って被差別部落の人を排除排斥しようとした事件がある。また、今から3〜4年前にはアイビー・リックの身元調査事件も起こっている。今回のように法律の番人として人権というものをしっかり分かっている司法書士が、現実に利益追求のために身元調査をやっているとしたら、これは単に個人の問題では終らない。また、部落の人と結婚したら血が混じって具合が悪くなるとか、結婚することによって自分たちの身内の他の人達の結婚がうまくいかないという誤った差別意識が今もなお社会に存在することをしっかりおさえなければならない。

 大阪府では、部落差別を禁止する条例があって、この条例を活用しながら、今回のような問題が起こったら速やかに司法書士の名前を公開する、あるいは司法書士に対して事実確認を速やかに行うことがきちっとやれるシステムになっているが、京都ではそんなものにはなっていないし、滋賀県や兵庫県でもないという問題が現実に存在する。

 今回の問題で男性Bは、親に勘当されても女性Aさんと添い遂げていきたい、こういう強い意志を持ちながら彼女を現在支えていただいている。こんな差別はおかしい、自分の親父の生き方や言うことはおかしいとはっきり主張されている。

 

 ●まとめ・差別をなくすための取組

西田 最後に、今後差別をなくすための取組、具体的にどのような形で取組を進められるのか、またどのようなことを大切にしていく必要があるのかという話を本日のまとめとしてお願いしたい。

吉村 ニューメディア人権機構の目的は、電子空間の中で電子空間を活用して、様々な人権問題の解決に貢献していこうということ。ホームページ「ふらっと」の活動の柱は3つあって、人権情報の発信、人権教材の提供、人権相談活動。それぞれに対応してホームページのコンテンツが、ふらっとナウ、ふらっと教室、ふらっと相談室となっている。

ふらっとナウでは、様々な情報を蓄積している。テーマごとに特集記事もある。

 ふらっと教室は、人権啓発教材の紹介と共に教材自身をインターネットを通して自分のパソコンにダウンロードしてそれを活用いただける。

 ふらっと相談室は、一昨年の12月10日の世界人権デーに開設したページで、解決に至る段階として3段階ある。1番目は、「事例で納得Q&A」で、ここで様々なNPOや行政機関などにお願いして、実際にその機関に寄せられた相談をもとにQ&Aを作成した。事例は約450ある。まずここで自分の相談に当てはまるものがないかを探していただくのが第1段階。第2段階は「皆の意見聞かせて」ということで、人権悩みの相談広場という掲示板のシステムを取っている。第3段階は、「専門家に相談」ということで、ここは前の2段階で解決しないことやもっとプライベートに相談したいという方に利用していただくもので、専門家に直接つなげるページになっている。更に全国の常設の人権相談所の電話番号や住所や女性センターなどの連絡先を網羅したページもある。

仲島 ふしみ人権の集いでは以下の6つの視点に基づき人権教育を推進している。まず、出会いを大切にするということ。2つ目は、生涯学習としての人権教育の実践。学習会を企画し、実行する際に心がけているのは、あらゆる年齢層、社会層の人々が生涯にわたって人間の尊厳について学び、それを社会に確立するためにその方法について学び、実践していただくこと。3つ目は、自分がぶち当たる人権問題から考えていこうということ。4つ目は、研修テーマがタイムリーであることも重視している。5つ目は、企業の社会的責任に訴えるということ。住民の多数が働く企業の経営者の理解と協力によって人権を尊重する豊かな社会が実現すると考えるからである。最後に6つ目としては、地元文化を継承し発展させるということ。地元が誇る文化として竹田の子守唄がある。総括集会では毎年人権問題に理解があり、国の内外で音楽活動を展開している、異なるジャンルの優れた音楽家の演奏と共に、地元女性コーラスグループの合同コンサートが参加者の深い感動を得ている。

安田 結婚差別事件のような事件が現在でもまだ起こっている。差別したらあかんというのは皆共通理解をしているが、差別をするという現実がある。それを突き詰めていったときに、人それぞれの生き方の問題になる。自分たちの課題としてどう自分が変わっていくのか、どう自分が行動するのか、身体を動かして変えていく。そういう取組が大事だ。

 また、京都では差別を受けて、あるいは子育てや教育のことで心配や悩みがある人の相談を受ける機関や取組がまだ十分にできていない。市内の被差別部落につくられているコミュニティセンターの目的は部落差別を解決していくセンターであるということは昔も今も何ら変わっていないが、コミュニティセンターが人権の被害の救済を受けた人達の課題を相談できる体制に持っていく必要がある。そして具体的な啓発を発信していくような位置付けが必要だ。更には、これからは生活福祉の問題が非常に大事であり、この問題に取り組む拠点としてもコミュニティセンターの役割がある。今までは、コミュニティセンターは、同和地区だけを限定していた施設であったが、これからは法律が変わる中で一般市民に開かれた、市民の人達も活用してもらえる拠点施設にしていく必要がある。

西田 今回の第2分科会では、大きく二つのことを感じた。一つは、人と出会うことや、事実に出会うことが非常に大事であること。もう一つは、相手の気持ちを大切にすること。差別落書事件をとってみても、落書を見る人の気持ちを考えたら、そんなことを書けるはずがないと思うのだが。私は小学校で子どもたちと人権について共に考えることを大切にしている。「すべての人が安心して暮らせる世の中にするためにどのようなことができるか」を考えるために、人の生き方や人の命、そして人の心を大切にしているか、互いに問いかけている。

 キーワードとなる言葉が今日はいくつかあったが、その一つは「尊敬」という言葉ではないかと思う。人を人としてかけがえのない存在として受け入れあい、認めあえることができる、そんな生き方を大切にしながら、普段の生活を送ることが非常に大事であると考える。

 

戻る     次へ