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 第35回部落解放研究京都市集会

第6分科会  

解放教育T 「同和地区の子どもたちの学力保障・進路保障」

同和教育が大切にしてきたものを継承、発展させ、

すべての子ども達の学力・進路保障を実現するために

司会:山口 基之(京都市中学校同和教育研究会)

記録:吉川 武詩(京都市中学校同和教育研究会)

■第1部 問題提起

・「2000年度京都市同和地区住民生活実態調査」についての考察

・自校での実践報告  細田 千夏(京都市小学校同和教育研究会)

 

■第2部 パネルディスカッション

   パネリスト:        細田 千夏(京都市小学校同和教育研究会)

                          川北 浩史(京都市小学校同和教育研究会)

                          矢野 昭人(京都市中学校同和教育研究会)

                          坂田 良久(京都市中学校同和教育研究会)

  コーディネーター:松本 威雄(京都市小学校同和教育研究会)

 まず第1部では、問題提起として、最初に、2000年度に京都市が行った「京都市同和地区住民生活実態調査」について、第6分科会の実行委員で考察した内容を報告し、次に京都市小学校同和教育研究会、上鳥羽小学校の細田千夏さんが、自校での実践報告を行います。第2部では、パネルディスカッション形式により、第1部の問題提起を受ける形で、フロアの皆さんと共に意見交換を行いたいと思います。

                         みやこめっせ第1展示場  ☆ 参加者数=226人

【問題提起】

 

「2000年度京都市同和地区住民生活実態調査」についての考察

 まず「年代別同和地区人口」から見ていきます。2000年度の総数は6114人で、16年前に比べて約3分の1の減少です。どの世代においても大幅に減少していますが、中でも30歳から40歳代という中核的な世帯が最も多く減少しています。さらに、同和地区の小学生、中学生については、激しい減少が起こっています。この人口減少が何をもたらしたかを最もよく示すのが「年収別世帯数」の変化です。高収入層が10年の間に流出しています。

 次に就労状況について見てみます。「有業者」つまり「収入がある」人の中で、「仕事が主である」という割合が、同和地区で激しく減少していますが、京都市全体では大きく変わっていません。さらに、20歳から29歳の若年層に厳しい就労状態が見られます。

 ここで同和地区児童・生徒の生活背景について見ていきます。生活保護世帯の割合は、全市に比べて小学生、中学生共に5倍近くあります。また、単親家庭の割合は、京都市と比較して明らかに多くなっています。

 最後に教育状況について見てみます。高校卒業以上の学歴を有する方、大学を卒業されている方の割合は、京都市全体と同和地区においては、明らかに差が見られますが、これは集計の数字に施策が行われる以前に就学していた60歳以上の高齢者の年代が含まれているからではないかとも考えられます。現在の小学生と中学生の保護者にあたる世代である30歳代と40歳代に限定してみると、同和地区の進学率が改善されてきた世代であるにもかかわらず数値の格差が見られ、同和地区生徒の中途退学率の高さなども影響していると思われます。

自校での実践報告  細田 千夏(京都市小学校同和教育研究会)

 先ほどの京都市の実態資料と重なる状況は、本校の全校児童3%弱の同和地区児童にも、課題の起因となっていることは否めません。就労状況の不安定さは、経済的なしんどさだけでなく、社会的なつながりや関係を狭め、文化面で生活や行動様式に変化を生じさせにくく、教育的な情報や刺激の少ない状況が見られます。

 そのため、いまだ学習の習慣やリズムの確立しきれず、様々な経験や触発の機会が不十分な状況が見られ、「自分から」挑む、思いや意欲を持って行動しきるといった「学び」を獲得するための土台が十分に培われていない現状があり、本人の力や可能性が十分に発揮できない状況が生じています。けっして本人や親の性質や努力の不足によるものではなく、いまだ同和問題による要因が複雑に絡み合って及ぼす影響を断ち切るため、本校では次のように取り組んでいます。

 

◇本校の取組

学校教育目標『人権教育を基盤として、自己を磨く心豊かな子の育成』

−同和教育を核とした人権教育を基盤とした教育の営み−

同和教育活動方針

特別な取組・活動から〈当たり前に保障〉へ

◇確かな学力の保障と向上の取組

      いきいきと活躍し、課題解決をなす『効果的な授業』展開

○「個を見つめる=焦点化」:個にこだわって取り組む

       〈個の成長を長いスパンで図る〉

        ・自ら学ぶ力 ・自ら学び続ける力 ・自ら問題を解決する力

      ○「協力指導」:複数の視点を生かす

〈様々な視点で、みつめ検討し、かかわる〉

     ◇確かな学力の保障と向上を支える取組

「授業」で確かに学びを吸収するための力(基盤)の耕し

      ○「ぐんぐんコース」(課外授業):〈学ぶ姿〉〈継続して学ぶ良さ〉を培う

○「チャレンジ事業」:〈生活経験の拡充〉〈触発を受ける〉

 

◇A児に対する取組

  本校同和地区児童の中でも、力の伸長を阻害されている状況におかれているA児を、 本校同和教育で焦点化し取組を図ってきました。すぐに「ムリ」「あかん」「できひん」 と口にし、持っている力や可能性を開花させようとする意欲や行動は、殆ど見られない A児でしたが、まずは、「ムリ・あかん・できひん」と口にできない状況におき活動す ることで、自分の力に気づき自信を持つことで、自ら意欲を引き出し、〈自ら学ぶ力〉 が作用するようになると考え、取り組みました。

◇A児への取組

−ぐんぐんコース−  課題別コースで個別学習

  @自分で学年・単元を選択し、課題プリントにむかう。

  A問題の要素や関係を取り出す。

  BAを図で整理・把握し、問題解決の見通しと根拠を持つ。

  CBの見通しで立式・求答する。

   *指導は、アドバイスや丸付け、個別課題への対応。

 −こどもわくわく探検隊−(チャレンジ事業)

*3年生以上の希望参加者が、選択したコース別に、異学年グループで自分た

    ちが事前に計画した行程で探検する。

   *各ポイントごとに、子供たちの活動を見守る。

◇A児への成果と課題

  すぐに「ムリ」と回避する姿を見せがちだったA児は、課題学習やチャレンジ事業の 活動体験を通し、自分の可能性や、挑むことで成長する力を自覚し、自信がなくてもま ずはやってみることが当たり前になってきました。また、生活や学習の中でA児自らが、 自分の考えや思いの根拠を意識するようになり、自分の思いを言い切る姿も出てきまし た。そしてA児の成長は家庭にも変化をもたらし、教育的な関わりや、成長を支えよう とする具体的な姿が意図的になされることが増えました。不安がぬぐいきれない経済状 況、特別施策の裏打ちもないこれからを歩むA児の将来を見据え、義務教育から飛び立 つ時、いくつもの進路からA児が選択できるための、ゆるぎない学力を保障する責務の 重さを改めて感じます。

◇今後の課題

  A児のおかれている状況にとって切り拓く鍵は、関わりや関係でした。この取組が少 しずつA児や同和地区児童に作用している実感がありながら、同和問題は、人や社会の 関わり、関係にあることを踏まえると、確かな学力保障のためにはまだまだ培わねばな らない力がたくさんあります。保護者とのつながり、家庭地域との連携、そして個の成 長を長いスパンで図るための教育の連携など、確かな保障に向かうため、具体的かつ有 効的な取組を、これまで以上に図っていかねばなりません。これをいかにして何をもっ て切り拓くかを探り、生活課題をも含んで取り組まねば、学力保障は成し得ません。そ のためには同和問題の認識、これまでの過程と現状、そして同和教育の過程と歩みをも っていないことには、社会や教育を取り巻く変化の厳しい現状で、主体的に自ら生き歩 む力を子供たちに培えない厳しさを自覚し、A児もどの子にも、子供のおかれた状況に よって格差のない教育の営みを保障する体制や取組を見極め、あすからまた子供たちと 向かい合っていきたいと思います。

 

【パネルディスカッション】

松本:2つの問題提起を踏まえて、同和地区児童生徒の学力向上を図り進路保障をしていく上で、どんな条件がいるのか、どんな取組を今後していくことが大切なのかを議 論していきたい。まず、パネラーに自校の紹介と、第1部について思われたことを述べていただきたい。

坂田:1997年、本校ではGプロ(学習センターの将来展望プロジェクト)が立ち上がった。   学習センターの今後のあり方、それに伴う学校教育そのもののあり方に対して、様   々な面から千本地区の実態を調査・分析することから提言がまとめられた。これに   基づき、特別施策としての学習センター、確かな学力を保障する授業の改善、学ぶ   意欲を育てる学習、の3本を柱に、取組がスタートした。先ほどのデータについて、   なぜ人口が減ってきたかは、経済状況を考えれば当然の成り行きではないか。そし   て、地区から通っている子供たちは、教育的にしんどい状況になってくる。これは、   地区の子供たちが悪いとか怠けているわけではない。地区の子供は勉強できないと   いうことが当たり前のようになる危険性がある。これを放置すれば、新たな部落差   別をこの時代が作っていくことになる。教育に携わる者は、階層間格差の確立に負   けない取組を模索していく必要がある。

川北:崇仁地区の中に学校がある。今年で創立130周年を迎える。先ほどの調査で、崇仁地区だけでなく、同和地区の子供にとって生活環境が大変な状況が改めて分かった。上鳥羽小の取組については、一人の子の育ちを長いスパンで見続けることで、子供たちの成長にしっかり関わることができていると感じた。本校でも、授業はもちろん、センター学習や課外学習などで、焦点化児童を核にした授業実践を重ねてきているが、上鳥羽小の実践には見習わなければならない点も多いと感じた。

矢野:東山四条という繁華街にあり、生徒数が激減している。校区に同和地区、福祉地区を含んでいる。保護者は学校に対して協力的であるが、家庭の教育力が十分であるとはいえない状況である。本校でも、先ほどの調査と同じことがいえる。いろいろな取組をしているが、小学校だけ、あるいは中学校だけの取組では、限界があると考えている。

松本:中学校の場合、まさしく目の前に進路保障という大きな事柄があるが、進路という   ことを考えたとき、同和地区生徒にどんな課題があるのか。嘉楽中学では、課題解   決のためにどんな取組をしてきたのかを話していただきたい。

坂田:1998年から授業改革に取り組んできた。全体の平均点は年々上がってきたが、昨年 の地区生徒の進路状況は非常に厳しかった。学習からの逃げやあきらめがあった現実がある。今年度当初は、昨年度より厳しい状況があった。その危機感や反省から、新たな取組をスタートさせた。まず、対象生徒を分析し焦点化した。そして、具体的な取組の具現化として、場・機会・雰囲気を徹底的に保障した。

松本:具体的に成果として上がっていることはあるか、また厳しい状況にある子への手立   てはどのようにされているか。

坂田:集団の中で高められない生徒については、個性や実態・背景にあわせた取組をしている。地区生徒の点数は、昨年の4月から11月にかけて上がっている。今後、地域との連携、義務教育を一括りとしてとらえる小中連携が課題である。

細田:中学校に上がった時、自分の望みに向かって頑張ろうとする、学習しようとする意   識を、自発的に起こせる力を、小学校で培わねばならないと強く思った。

松本:崇仁小学校では、地域とのつながりを大切にした取組を進めていると聞いているが。

川北:ビオトープは、7年前、まちづくり運動の一環としての高瀬川改修工事に併せて、   校内に流れる高瀬川を子供たちの教育に役立つように改修する計画から始まった。   「まちづくりは、人づくり」をスローガンに運動を本格化した。「ビオトープに完   成なし」と言われ、地域の共同作業で永続的に守り育てたい。この事業を通して、   子供たちと一緒に考えて活動していく機会を得たことが、子供たちによい影響を与   えた。また、地域の大人との出会いの場を提供したことが大きい。

細田:ビオトープ以外で、地域との連携によって子供たちに関わった取組があったのか、また、ビオトープや地域との連携によって子供たちの学力は高まったのか。

川北:識字学級に通われている方との交流や130周年の記念事業に取り組んだ。また、皆山中学校との小中連携として、職場見学を実施した。この活動を通して子供たちは、地域の人々のがんばりと子供たちへの期待感、仕事をするということの意味や喜びなどに気づいた。地域の大人と教職員が、子供を中心に据えた活動を一緒にやってきたことで、地域の教育力が上がってきた。児童の遅刻や欠席が減ってきた。

フロア(崇仁小学校PTA会長):PTA活動の他、崇仁の教育連絡会などで子供と関わる機会が多くなっている。子供の生活を変えていきたい、子供の学力を上げていきたいのが大きな目標である。地域として何ができるのか、親として何ができるのかを学校が発信してほしい。

松本:弥栄中学校では、来年度から小中一貫教育を進めていく予定ということだが、なぜ、それが大切だと思われたのか。また、来年度、具体的にどんなことを取り組んでいきたいと考えているか。

矢野:基礎基本の学力、基本的生活習慣、将来展望・進路展望が本校生徒の課題である。 この課題に対して今までいろいろと取り組んできた。少人数分割授業などの授業の改善、四校園連絡協議会などの連携の強化、大学生との交流などの将来展望の取組などを行ってきたが、課題が残る実態がある。小学校と中学校とに大きな壁がある。また、小学校の利点と中学校の利点をいかしたいということから、小中連携を考えるようになった。

具体的な取組としては、まず、小中の教師がすべての面で入れ替わる。分割授業・教科担任制や英語教育を導入することによる教科学習の改善、さらに、少人数分割クラスや二人担任制の導入などによるクラス編成の改善などが考えられる。

来年度どこまでできるかわからないが、教職員が熱意と意識を持ち、連携の大切さを忘れないようにしたい。

フロア(粟田小学校):小中のお互いが両方を認めた上で、子供たちにいかに力をつけていきたいかということが、この取組であると思う。地区児童の学力の向上につながるような小中一貫教育を目指して頑張りたい。

松本:フロアから質問、意見をお願いしたい。

フロア(久世中学校):上鳥羽小学校の取組について、A児の潜在化している物は何であ   るか。また、A児の生活に刺激や変化が少ないと断言する根拠は何か。

細田:今の生活が不安定な状況の中で、ある一定の日常を送っている。経験したことと今まで学習した知識が、なかなか生活として認識にならない。

フロア:(総合教育センター)今までの話を聞いていて、各校の取組がすごい、よく頑張っているというだけですませてはいけない。なぜ、先生方がそこまで思いを込めて一生懸命苦悩しながらやっているのかということを、しっかり受け止めなければならない。

地区の安定層の流出、困難層の凝縮について、同和対策事業が間違っていたととらえるのは大きな間違いである。これからは、恒久対策としての事業が求められる。部落問題とは一体何なのか。社会問題としてとらえるべきである。地区をふくむ学校で、今何ができるのかが問われている。どんな親の元に生まれたか、どんな家庭に育ったかによって、受けられる教育が変わることがあってはならない。

フロア:どの親も、子どものことを思わない親はない。子どもも、自分の持っている能力を世の中で精一杯活かしたいと思っている。ところが、部落ということで差別され自信が持てないという現実がある。地面に足のついた教育で力をつけていく中で、子どもたちは、自分が将来出て行く社会に夢を持つことができる。まず、親や教師が元気を持って、子どもに関わることが大切である。

松本:これでパネルディスカッションを終わります。

 

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