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第44回人権交流京都市研究集会

  分科会

「共に生きることをめざして」

〜これからの人権教育の課題と展望を考える〜

                     大谷大学2号館2202教室

             

 

「人権教育(外国人教育)の取組 〜外国人児童の思いを軸に〜 」

小栗栖直樹さん(京都市立樫原小学校)

1992(平成4)年に「京都市立学校外国人教育方針〜主として在日韓国・朝鮮人に対する民族差別をなくす教育の推進について〜」が策定された。その方針の前身にあたるものが、1981(昭和56)年「外国人教育の基本方針(試案)」であるが、小栗栖さんはこの「試案」がまとめられた当初、京都市南区の在日韓国・朝鮮人が集住する地域の小学校に勤務しておられ、これらの問題に深く関わってこられた。

京都市の「外国人教育方針」には4つのポイントがある。

@民族差別をなくすことを柱にした人権教育

A現状と歴史的背景の認識が必要

Bアイデンティティを大切にする(母語や母文化の尊重、まわりの理解推進)

C全ての教科・領域で進める

以上がそのポイントだが、その中でもアイデンティティ・自己同一性(=自尊感情)を大切にするという点が外国人教育を推進する上で、最も大事である。

 

○学校で直面する課題

 ・公簿は本名記載である。

  →国籍法の改定以降、外国籍児童の把握が難しくなり、通名のみしか書かれていない等の間違った記載内容が多い。

 ・受け取られない卒業証書がある ←「外国人教育方針」から20年経っての現実

○外国と仲良く

〈ロシアとのダブルの子どものケース〉

 そのダブルの児童は、低学年のころ、日本語がわからないため、からかわれ,一番つらかったのは、自分の理解者や遊んでくれる友達がいないこと、「ガイジン」という揶揄を受けるという経験をし、学校へ行きたくないと母に漏らすようになった。総合的な学習で、ロシア語、韓国・朝鮮語・英語で「大きなかぶ」の劇を含めた発表会を行った。

彼は、ロシア語をみんなに教える役をし,調べ学習でロシアの祖父に手紙を出し、関心のあることを聞いた。

支部の感動体験発表で、「日本とロシアの架け橋に」といった内容で発表し、ダブルでよかったという内容を話した。学年全体で発表した時、他の児童の何人かが「自分も低学年のときにいやなことを言ったが、今日、気持ちがわかった。」などと感想を書き、発表を応援した。

〈韓国籍の子どものケース〉

韓国・朝鮮籍の子どもに対しては、4月当初にアンケートを持って担任が家庭訪問をして回る。

ある韓国籍の児童で、家では母が「絶対秘密にしてほしい」と言っていたが、自分自身も勉強していくからという姿勢を見せて対応していく。総合学習の発表会で、母のチマ・チョゴリを借り,友だちとファッションショーを行った時、チョゴリのコルム(リボン)の結び方がわからなかったので、適当に結んだら、その子の母が全員分の着付けをしてくれた。自分の経験から民族を隠すことが、大切だと考えてきた母親も、子どもの変化に影響されたのだろう。母も含めて自分の民族に肯定感が持て、自然な形で明らかにした。

その後、テストの答案に、本名をカタカナで書く等、生徒自身に民族的な自覚が芽生えてきたと感じる場面もあった。卒業証書も本名1枚だけを受け取った。

「国際理解教育」については、外国人教育のつながりの中で捉えて実践していく必要がある。自分の隣の友だちのことを知ることが大切。

外国人教育を実践していく上で、京都市は他府県より進んだ取り組みを行っている。

誰でも、どこからでも外国人教育が出来る基盤がある。

◎ 京都市の進んでいる点

 ・外国人基本方針があること。

 ・外国人教育主任が配置されていること。

 ・外国人教育研究会があること。

 ・6年社会科(外国人教育内容)や道徳教材の中で採り上げられていること。

 ・給食で朝鮮料理が出てくること。      

 

 

 

 

 

 

報告A

「外国にルーツをもつ子どもたちを取り巻く環境 〜教育・社会・家庭〜 」

大栗真佐美さん(京都市立向島中学校)

0.はじめに

もし、自分自身が突然外国の学校に転入することになったら、どのような体験を余儀なくされるか、というアイスブレーキングをフロアの方に体験してもらう。ポルトガル語と中国語で体験をし、フロアから「簡単なことでも、確かにわからない」という声が出た。

まず、教育の環境の違いが国によってあるということを説明する。日本の学校制度が全ての国に共通ではないことを知った上で、外国人児童生徒を教育する必要がある。例えば、ブラジルや中国の教育については、(例:ブラジルの学校は午前中だけの授業、中国の学校は0限〜8限の授業)等である。

1.学校における外国にルーツをもつ子どもたちとの共生

(1)はじめに〜京都市の日本語教室の概要〜

小学校と中学校で、現在、13の日本語教室が設置されている。1977(昭和52)年に京都市立明徳小学校に設置された日本語教室が、京都市の日本語教室の起こり。

(2)向島中学校の現状

通級生徒は8名(全校の外国にルーツを持つ生徒は20名以上)。過去20年間の卒業後の追跡調査から、ほとんどの生徒が公立高校や私立の高校へ進学し、大学進学(国立・私立)も果たしている。また、一流企業へ就職し、起業している卒業生もいる。

(3)共生を考える取り組み

※日本人生徒に対しては、身近な環境で体験していくことが大切。学校教育の中で、国際理解教育、人権教育等の取組から体験していく。

例:日本語教室で、必死に学んでいる姿を周囲の友人に知ってもらうなど。 

※外国籍や外国にルーツをもつ生徒に対しては、母語の保障も大切。

取組例:中国語検定・絵本のポルトガル語版翻訳など。 

※民族の文化にふれる集いへの参加

→ 自分を出せるという場がある、ということの大切さ。

※多言語進路ガイダンスでの発表

学校内外で自分のことを発表する場をもつ。←子どもたちに対するエンパワーになる。

2.在留管理制度と通称名について

2012(平成24)年7月9日から、在留管理制度が新しくなった。「外国人登録証」が廃止になった代わりに、特別永住者には「特別永住者証明書(カードになっている)」、それ以外の外国人には「在留カード」が交付されることになった。学校現場に関して、どのような課題や留意事項があるかは、本集会冊子P7077に掲載の小西和治氏の論文に詳しい。

向島中で、今のところは大きな混乱は起きていないが、卒業生に対するケアが必要である。と言うのも、16才になったからと言って、「外国人登録証の切り替えをするように」という案内が入国管理局から案内が来るわけではない。

3.外国にルーツを持つ生徒のアイデンティティ形成の必要性

・双方の学び合い→外国籍や外国にルーツをもつ生徒と日本人生徒が、互いに歩み寄って、それぞれの立場等を理解し合えるような機会や場を持つことが大切。

・誇りをもって自分を語れる場→自分自身を語ることによって、自分自身を受け容れてもらっているという意識が強くなってくる(=帰属感)。

・子どもたちや保護者の方から学ぶ→様々な背景をもつ子どもがいる。その子どもたちを取り巻く状況を理解するだけでなく、子どものアイデンティティ形成にどう関わっていくかを、子どもや保護者との関わりの中から摑み、学んでいく姿勢をもつ。

【中間討議】

Q.市立中学校 Aさん

洛友中学校の生徒もいわゆる「オールドカマー」ではなく、ニューカマーが増えてきていて、新しい「在留管理制度」の周知に手こずった。去年の7月に変更された「在留管理制度」は、当事者に伝わりにくい制度であるが、どのようにして保護者等に周知しているのか?また、母語保持の問題について、洛友中学校の生徒の中に、孫と話ができないと嘆く人がいる。日本の在留年数に応じて、子どもにどのようにして母語を保障していくのかということが難しくなる。母語保障に関してどのような取組をしているのか、聞かせて欲しい。

A.発表者 大栗さん

向島中学校では、過年度生に対しても、新しい制度についてアナウンスをした。すでに在留カードへの切り替えを終えている。来年度行う3年生についてもプリント配布済み。

 

Q.大学教員 Bさん

中国語を母語とする生徒の話をたくさん聞かせて頂いたが、他のエスニック言語の生徒に対する手立てはどうしているのか?

A.発表者 大栗さん

他の言語に対するフォローもしている(市教委との連携)。他のエスニック言語の子どものアイデンティティ確立については、「民族の文化にふれる集い」に参加する等して、自分に誇りをもてるような場を設定している。ブラジルの子どもを出演させた年もある。

母語保持については、通級生徒の母国の国の言語について対応できるようにしている。今年の場合は中国語とポルトガル語。

報告B

「外国人教育から多文化共生を目指す教育への展開 〜外国にルーツのある子どもたちとアイデンティティ〜 」

磯田三津子さん(埼玉大学教育学部准教授)

0.はじめに

在日コリアンを対象としてきた外国人教育の実践の蓄積からは、近年増加を続けるインドシナ、中国や南米からのニューカマーの子どもたちの教育への示唆が得られる。ところが、「外国人教育」「国際理解教育」「多文化教育」といった言葉は、混乱して捉えられている傾向にある。研究者によっても、捉え方はまちまちである。それと同時に、多文化共生という言葉についても、曖昧な言葉であると言われている。これからの外国人教育について考えるためにも、これまでの実践を踏まえ、その概念を検討することが必要である。

1.外国人教育とは何か

(1)外国人教育に関連する言葉

              ・在日韓国・朝鮮人理解の教育

・人権教育←同和教育がさらに広がってきている。

・国際理解教育←第二次世界大戦後、ユネスコが提唱してきた教育である。

・多文化教育←もっとも外国人教育に近い。

他にも、異文化理解教育・多文化教育・多文化共生教育等の言葉がある。

(2)外国人教育

 方政雄(2012年)が、「(学校には)外国人への偏見・差別、民族的自覚や自尊感情を阻害されている状況がある。また文化や生活習慣の違いなどにより、疎外感を感じたり、いじめを受けたりするなどの問題もある。外国人児童・生徒教育とは、民族的自覚を持ち、自己実現を図ることができ、母国の文化に触れることを目指す教育である。」と定義している。

(3)多文化教育

 J .A. Banks2010年)が、「(米国の)多文化教育は、さまざまな社会階級、ジェンダー、人種、言語、文化集団出身の生徒が等しく学習できる機会を得るために、学校と他の教育制度を変える取り組みである。」と定義している。

 外国人教育・多文化教育には、「日本人/白人中心の学校文化を見直す」、「国内・地域、学校における差別をなくし、教育における平等をめざす」という共通点がある。また外国人教育とは、外国人(特に、在日コリアン)に対する差別や偏見の排除と、外国人児童・生徒が自尊感情を抱き、安定したアイデンティティの形成をすることを目指す教育であり、そのために、学校のいくつかの側面を改革することを通して実践されてきたと言える。

2.外国人生徒が抱える問題―学校における差別と排除

外国人教育とは、前述したように本来、外国人の子どもに対する差別や偏見を排除し、自尊感情を形成することを目指した教育である。しかし、外国人教育の視点が取り入れられていない学校では、柿本隆夫の報告(2006年)にもあるように、子どもの疎外感、劣等感、孤独感を形成してしまう傾向にある(例: 在日コリアン2世からの聞き取り)。

3.アイデンティティ形成に関わる教師

(1)母国語を隠す

母国語を隠すことは、自分自身を隠すことに等しい。それは、自分の出自に引け目を感じることにつながる。→アイデンティティ形成を阻害

(2)アイデンティティの形成と承認

アイデンティティ形成には、他者からの「肯定」が重要←具体的に重要なのは学校

母語・母文化はその人の人格そのもの。教師が子どもの使う母語等をほめるということが、その子どもの人格を認めることにつながる。

(3)自分自身に対する差別

 誰からの差別が一番つらいか、という問いに対して、「自分自身を差別することが一番つらい」と答えた児童がいた(2012年、小栗栖直樹)。 ← 他者からの「承認」が必要

 

 

4.「多文化共生」をめざす外国人教育に向けて

 京都市の小学校での、有効だった取組例を紹介

 

【質疑応答・討議】

○部落解放同盟 Cさん

外国人教育の裾野は広がっている訳ではない。若手の先生方については、取り組み易い内容が多くあるので、是非どんどん取り組んでいって欲しい。

○発表者 小栗栖さん

過去の実践例を再度紹介。

○教育相談総合センター(こどもパトナ) Dさん

少数点在している小学校で外国籍の子どもたちと関わったのが、自分の外国人教育の取り組みのスタート。「初心忘るべからず」で、今も思い起こしながら子どもたちと関わっている。在籍していなくても、外国人教育に関する取組はしなければならない。

○発表者 磯田さん

関東圏の学校では、オールドカマーの子どもに対する取組は、現在、殆どと言っていいほどない。京都市では、マイノリティの子どもたちに対して、先生方の目が向いているという感じを持つ。

○京都市立中学校 Aさん

京都市の「外国人教育方針」策定については、在日の側から何とかしてほしいと切実な声があった。その声に対して、共に学んで解決しなければならないと思う教師の姿勢もあった。そういう土壌があることを知っておくべき。

教師の子どもに対するまなざしとして、保護者がどういう気持ちでいるのか?子どもに寄り添う、保護者に寄り添うとはどういうことか?常に考えていく必要がある。自分は、地域での活動ができなかったことは反省。

○京都市立中学校 Eさん

 昨年ニューカマーを担任している教師についての調査結果を、この集会で発表した。外国人教育主任に対して調査をしたが、正直なところ、外国人教育主任が機能していないと感じるような回答もあった。京都市は進んでいるという報告があったが、近年研修の場が充実しなくなってきた。今日の発表は、成功例が多かったが、そうではないという思いもある。

〈発表者よりまとめ〉

○小栗栖さん

 きびしい状況は変わらないが、児童・生徒の理解や自尊感情をどう高めていくかがこれからも重要。

○大栗さん

 外国にルーツをもつ子が増えていることを、たくさんの人に知ってもらいたい。

○磯田さん

 ここに来ていない人、若い人にどうやって伝えるか。

 

アンケートの感想

・外国にルーツのある子どもたちが生き生きと活躍できる環境を築き上げるために学校・教師が重要な役割を果たす立場であることを改めて感じました。京都の取組が全国に広がっていくことを願います。同時に京都から新しい取組を進めていかなければならないと思います。

・現在,私の学年に3名の外国にルーツを持つ(ニューカマー)生徒がいます。日本語教室の持ち方・進め方は,学校全体で検討している途中です。向島中学校の実践が聴けて大変参考になりました。是非とも学校に持ち帰って活かしていこうと思います。

・一人ひとりの子どもたちの目線に合わせて頑張って頂いていることに,運動をしている者として,とてもうれしく思いました。良いことばかりではないことは,わかります。同和問題と同様にあきらめずに共にがんばりましょう。ありがとうございました。

・良かったです。勉強になりました。勉強会があれば参加したいです。

・今,自分の教室にいる外国にルーツをもつ子に対してできることを考えるきっかけになりました。

・朝鮮学校では,どのような考え方・取組が行われているのか,また,学校間で朝鮮学校が取り残されていないか,本来,中心となるはずの朝鮮学校の内容がひとつもないのは,なぜでしょう。

・磯田先生の話がわかりやすく,本質をついた内容であった。

・小栗栖さんの取組は,話がわかりやすく大変良かった。また,聞かせてほしいと思う。

・様々な面で人権教育(外国人教育)を実践する難しさは確かにあると思いますが,京都には方針などあり,実践しやすい基盤があると思います。少しずつでも広げていきましょう。

 

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