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森口 健司 さん
(T-over人権教育研究所・人権こども塾共同代表)
「ひとごと」から「わがこと」へ
〜語り合い、夢を託す〜

講師プロフィール
T−over人権教育研究所・人権こども塾 共同代表
1959年 徳島県生まれ
1982年 同志社大学文学部文化学科心理学専攻卒業
大学時代、京都での被差別体験が、教職へと思いを強くし、卒業後、中学校教師になり、子どもたちの心に響く同和教育を模索する中、1990年度より板野中学校において「生徒が生徒をかえる語り合いの人権・部落問題学習」(全体学習)を創造する。
1993年度文部省(現:文部科学省)道徳教育読み物資料作成協力者会議の委員となり、「中学校読み物資料とその利用」の作成にかかわり、道徳資料として家族への感謝をテーマとした「スダチの苗木」と結婚差別の現実を題材に部落差別解消への願いを込めた「峠」を著す。
このような実践と共に、1996年度より広島大学教育学部で5年間、2005年度よりは愛媛大学教育学部で6年間「人権教育」の講義を担当、教職を目指す大学生に本当の思いを語り合う人権学習を創造する。
2015年度、鳴門市第一中学校の生徒会本部役員によって道徳資料「スダチの苗木」が、部落問題をテーマとした映像劇となり、部落問題を「わがこと」として、仲間や家族への思いを語り合う人権学習の教材として活用される。
2019年には、板野中学校で全体学習に取り組んだ仲間と、「みんなで語り合う人権学習はすべてを変える」をテーマとして、「T-over人権教育研究所・人権こども塾」を創設する。
2024年12月には、NHKラジオ深夜便・人権インタビュー「語り合い、夢を託す」に出演し、部落出身教師として取り組んできた人権学習と道徳資料「スダチの苗木」に込めた思いを伝えている。

「ひとごと」から「わがこと」へ
〜語り合い、夢を託す〜
1 自己を深く見つめる機会となったNHK徳島放送局の新人アナウンサーとの出会い
2024年9月、教職43年目、再任用5年目を迎えた私は、松茂中学校において、若い4人の教員とともに「チーム担任制」で3年生4クラスを日替わりで担任していました。そのような中、「T−over人権研究所・人権こども塾」のホームページを通して、NHK徳島放送局の新人アナウンサー(当時23歳)から取材の依頼が届きました。内容は、文部科学省の道徳資料として作成した私のエッセイ「スダチの苗木」と、43年間にわたって取り組んできた人権教育についてでした。
23歳の若者を前に、まるで大学の集中講義のような雰囲気の中で、約2時間、私の同和教育実践について思いを語りました。すると、その場で彼女は食い下がるように、次々と質問を投げかけてきました。放課後の松茂中学校3年生の教室で、語り合いは3時間近くに及びました。そこには、清々しく、心を揺さぶられる感動が広がっていました。
この取材をきっかけに、2024年12月の人権収監に放送されるNHKラジオ深夜便「人権インタビュー」への出演が決まりました。部落問題をテーマとした内容が全国放送のラジオ番組として実現したのは、新人アナウンサーの新鮮で真摯な訴えがあったからこそだと思っています。


2 NHKラジオ深夜便「人権インタビュー」から培われた人権学習への願いと決意
放送は早朝4時からでしたが、放送当日の早い時間帯に私が勤務する松茂中学校へ、面識のないご高齢の方から2件の電話がありました。
お一人は兵庫県の方、もうお一人は神奈川県の方で、いずれもエッセイ「スダチの苗木」を送ってほしいという依頼でした。自身の思いと共に、放送で紹介された「スダチの苗木」への感想を、熱を込めて話してくださいました。
早朝4時のラジオ放送であっても、人の心に届くメディアの力の大きさを改めて実感しました。
さらに午後には、教職3年年目、25歳のときにはじめて参加した「四国部落出身教師の会」で出会った、愛媛県東温市在住の元高校教員の方から電話がありました。現在91歳で、老人ホームで生活されているとのことでした。
ラジオから流れてきた「森口健司」という名前と、40年前に語り合った部落問題への私の声が重なり、「何度も何度も胸が熱くなった。こんなうれしい日は久しぶりです」と繰り返し語ってくださいました。
その方は、教職員の人事異動のたびに、赴任先の高校で「東温市の〇〇という教員は部落だ」といううわさが常につきまとい、幾度も差別を受け続けてきた悔しさを、涙ながらに語られました。「手紙を書きたいので、住所をおしえてください」と言われ、長い電話を終えましたが、差別による心の傷は、91歳になってもなお癒えることなく残っていることを痛感しました。そして、この歩みをこれからも続けていくのだという、強い決意が私の中に生まれていきました。
43年間積み上げてきた、部落解放の主体者を育てる学級集団づくり、そして本当の思いを語り合う人権学習の実践を、次の世代へと継承していくためにも、できる限り教育現場に身を置き続けたい。そう強く心に刻んだ一日でした。
兵庫県と神奈川県のお二人には、さっそく「スダチの苗木」の資料を郵送しました。届いた令状には、お二人がそれぞれの人生の中で生き抜いてこられた苦難が、切実な言葉で綴られていました。
また、愛媛県の91歳の元高校教員の方からは、老人ホームでの生活の様子や、38年間の教員生活への思い、そしてご家族への感謝が丁寧な文字で記された手紙をいただきました。
エッセイ「スダチの苗木」を執筆して30年以上が経ちますが、仲間や家族への心からの感謝を文章に残すことができたことは、私の人生において、かけがえのない喜びとなっています。今回のラジオ番組出演を通して、この思いと願いが、さらに多くの子どもたちの心へと届いていくことを願いながら、これからも「語り合いの人権学習」を全力で積み上げていく決意です。
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