国際交流会館 イベントホール
日時:2003年2月15日(土)午後1時30分〜4時30分
構成:■実践報告
① 1へのこだわり~太秦「みどり学習」を通して
中村 博美(京都市小学校同和教育研究会)
② 「確(しっか)りと学習する」ということ
山口 基之(京都市中学校同和教育研究会)
■パネルディスカッション
コーディネーター 岸野 俊彦(京都市中学校同和教育研究会)
パネリスト 中野 陸夫(大阪教育大学教授)
瀧澤 公子(松原市立布忍小学校)
松本 威雄(京都市小学校同和教育研究会)
記録:笹部 佳則(京都市小学校同和教育研究会)
担当:田中 健(京都市小学校同和教育研究会)
参加者数:179名
討議の柱として、教育に関わる様々な場で、教育改革によって子どもたちの学力がどうなるのか、どうすれば学力を伸ばすことができるのか議論されています。
本分科会では、教育改革が真に同和地区の子どもたちすべての学力向上そして進路保障へと結びついていくためには、学校が何をめざし、どう動いていけばよいのか、また家庭や地域はどうあるべきかを考えていきました。
分科会の前半では、小学校中学校それぞれから、子どもたちの学力向上、進路保障の取り組みの実践を報告しました。後半は、パネルデスカッションの形式をとり、他府県での実践等も加えながら、すべての子どもたち、とりわけ課題の多い子どもに対して真の学力をいかにつけていくかを考え、明日からの実践に生かせることができるように考えました。
2校の実践報告の大きな項目は次の通りです。
実践報告1
◎ 1へのこだわり~太秦「みどり学習」を通して~
中村 博美(京都市小学校同和教育研究会)
学校教育目標
一人ひとりが光り輝く子どもの育成
~子どもから学び、子どもに届く教育実践を通して~
○ 『大好き 太秦』といえる学校づくり
○ 1へのこだわりとは
○ 1を育てる太秦みどり学習
1.太秦みどり学習とは
2.千人の中の一人にこだわる取り組みを通して
実践報告2
◎ 「確(しっか)りと学習する」ということ
山口 基之(京都市中学校同和教育研究会)
1.はじめに
2.「よくわかる授業」をめざして
○ 基礎学力を高める取り組み
○確りと学習すること
3.センター学習の取組
○センター学習の役割
①スタデイルーム
②「体験教室」「自習室」
③「話し合い活動」
○地域に開かれた学習施設
○先輩を迎えて
4.成果と課題
助言
田中 健(京都市小学校同和教育研究会)
本第6分科会では、学校教育として、同和地区の子どもたちの学力保障・進路保障を図るために、同和教育から人権教育への視点を持って同和地区の子どもたちの学力を高める論議を積み重ね実践して参りました。
本年度、新教育課程の実施、学校週5日制の完全実施と「地対財特法」の失効とが重なる等、子どもたちを取り巻く教育環境も大きく変化してきております。そのような状況の中、一人ひとりの児童・生徒が個性を発揮し、自分の持っている可能性を最大限開化させるために、様々な取組を日々展開されている小学校・中学校からご報告をいただきました。
最初に太秦小学校からは『1へのこだわり~太秦「みどり学習」を通して~』というテーマでご報告頂きました。
太秦という地を生かし、外国人教育として、韓国や朝鮮の人に対する差別の解消に向けての実践、あるいは、「人と環境にやさしい街『太秦』」をテーマにした「太秦みどり学習」の実践は、人権文化の構築に向けて大きな成果を期待できるものと思います。また、サブテーマに、教科学習の基礎・基本と響き合う教科・総合的な学習を通してとありますように、教科学習との相乗効果を図った取り組みでもあり、各教科の基礎・基本の確かな定着にも成果を挙げるものと考えられます。報告にもありましたように、太秦小学校は、京都市立小学校は179校あるわけですが、唯一1000人を越す児童の在籍する小学校です。子供一人ひとりが『かけがえのない存在』であり、千人の中の一人に徹底的にこだわり続ける教職員集団、すなわち『チーム太秦』の素晴らしさであると思います。
登校した児童に出会った教職員が、しっかりと子供の瞳を見つめ挨拶を交わすことから始まり、放課後、部活動での声掛けに代表されるように、担任からの情報を共有しながらその場、その時の一人を徹底して見、適切な声掛けを行う。毎日がその実践の積み上げなのです。
『太秦みどり学習』についてのお話がありました。「自然に優しい」「人に優しい」子供の育成を目指して総合的な学習をそのように名付けて取り組まれています。『太秦みどり学習』で身に付けた学び方の基礎・基本と教科学習で身に付けた基礎・基本の学力が絡み合って、生きてはたらく力となっていくものと思います。今日は2例の実践事例を報告して頂きましたが、6年生での実践、5年生での実践を通してそれぞれの児童の確かな変容を見ることができます。今後もさらなる充実・発展を期待したいと思います。
次に高野中学校からは、『一人ひとりの自己実現を目指した取り組み~確(しっか)りと学習することを通して~』というテーマでご報告頂きました。
『分割授業』による少人数学級での一人ひとりを大切にした実践。そしてその発展として「個人選択制習熟度別分割授業」として個々の生徒の学習意欲を喚起し、学習過程でのつまずきを見逃さない体制で実践されています。
さらに生徒一人ひとりの興味関心に応えるために新たな選択講座の開設により、基礎基本の徹底を図る講座から、生徒の興味関心に即した講座まで、幅広く選択できるように工夫されています。卒業後までも見据えた中で、自らが強い意志・意欲をもって主体的に学ぼうとする姿勢を培うことに重点をおいた取り組みがなされていますが、それは『確りと学習する』という言葉に象徴されています。
高校への進学状況は大きく改善されましたが、昨今では奨学金制度の変化から、進路が定まらない生徒が増加する傾向にあり、以前からの課題に加え、これまでに見えにくかった課題も見えてきています。
本研究集会が積み上げてきた確かな学力観のもと、同和地区児童・生徒を中心に据えた一人ひとりを徹底的に大切にする同和教育の普遍化を図る実践を今後とも積み上げていきたいと考えています。
本日の二校の報告をご参会のみなさんがそれぞれ咀嚼し、今後の教育活動に生かしていただければ幸いです。
パネルディスカッション
◎ テーマ「教育改革は学力格差を救えるのか」
コーディネーター 岸野 俊彦(京都市中学校同和教育研究会)
パネリスト 中野 陸男(大阪教育大学教授)
瀧澤 公子(松原市立布忍小学校)
松本 威雄(京都市小学校同和教育研究会)
記録 笹部 佳則(京都市小学校同和教育研究会)
担当 田中 健(京都市小学校同和教育研究会)
岸野 自ら学ぶ意欲、社会に適応できる力といった新しい学力観に基づいた授業の組み立てをしているところだが、果たして確実に学力が身についているかという不安がある。
中野 だいたい10年間隔で学習指導要領の改訂が行われており、そのたびに議論になるのだが、今回の場合は以前とは少し様子が違う。典型的なものに円周率についての話題があるが、そのように本流とは違う議論が多く話題に上っているようである。「生きる力」のひとつは、単純な言い方をすると知識の集積によるものがあるといえる。また「生きる力」は複合的な問題であるが、学校はどの部分で責任を負わなければならないのか、という点で、今日のテーマの大きな柱となると思う。
岸野 今回『学力低下』というテーマを設定したのは、学力低下というものが実際どういうものなのか、また、それを乗り越えていくためにはどうすればいいのかを考えていく中で、話が深まっていくと考えたからである。
中野 (実態調査から)89年の調査の目的は、さまざまな取組の結果が学力保証の目標に到達しているのかを調べ直すことが目的であった。これ以降の調査で私が常に問題にしてきたのは学力の傾向の変化である。以前にはなかった傾向として2極分化が起こってきているということ。学力保障という観点からどこに問題があるかを探っている。仮説として、学力は低下傾向にあるといえる。
岸野 1989年と2001年の調査から全体として平均点は下がっているといえるが、通塾、非塾を比較すると特に非通塾で差が大きく出ている。
中野 生活実態が子どもの学習状況に影響を起こすということは伝統的にあるといえる。しかし、影響であってイコールではない。ベースをどこにおいているかということで、この結果のとらえかたは大きく変わってくる。これだけでいけば、塾に行けば問題は解決することになるがそうではない。問題解決の一つの手立ては教育改革といわれているものの中での授業改革に成果を出すことができれば状況を変える可能性はそこにあるといえる。授業改革こそが大きな課題ではないか。
岸野 ここで、格差を乗り越えようと実践している布忍小学校と朱雀第四小学校を紹介したい。
瀧澤 布忍小学校は今年創立130周年を迎えたが、古くから同和教育、人権教育を学校教育の根幹に据えて実践してきた。校区のPTAの合言葉として『子どもはまちのたからもの』が示す通り校区全体が子どもを大切にしようとする風土がある。
本校の学力向上に向けての取り組みの柱として『国・算を中心とした基礎・基本の学習内容を総合的に学ぶ授業改革』と『学力向上の効果測定』を中心に報告したい。
布忍小学校では個別学習、自己選択、自己表現の3つのキーワードを大切にして取り組みを進めてきた。
個別学習では習得学習ノートを活用したマスタリーラーニングという授業形態を算数の時間に入れてきた。自己選択による発展学習や補充学習の実施については、子どもの実態から、自分から進んで学習に向かう力をつけるために、個に応じた学習指導のカリキュラムを行った。今日学んだことをしっかり身につけるために、補充学習や家庭学習がもっと必要であろうと話し合われた。
算数科ではそれまでの発問や導入の工夫などの取組による一定の成果を基礎に、少人数授業による多様な学習指導方法や形態を活用した授業改革に踏み込んだ。
『数量・図形についての基礎的な知識と技能を身につける』『多面的にものを見て、論理的に考える力をつける』『算数を実生活で活用し、進んで問題解決しようとする態度を身につける』の3点を学校全体のものとしていった。
一斉指導をコンパクトにして、子どもたちが個別に考え学習する時間をとり、一斉指導でまとめる『マスタリーラーニング』という流れで授業に取り組んでいる。
ちからだめし→学級分割指導→チェックテスト→コース選択グループ指導(じっくりコース・どんどんコース)→単元テストという流れである。その結果、5分と集中が持たなかった児童が自分のつまずきを見つめるようになってきた。
習得学習ノートというマスタリーラーニングに対応した学習材を用いているが、子どもたちが学習の見通しを持てるということや、既習事項を確認しながら学習に取り組めるという特長がある。
岸野 先ほどの『学力低下の実態』の中では、学習意欲の低下ということも言われている。ここ10年間の間に『勉強しない』という回答が増えているとグラフにも表れているが、意欲を高めるという点に重点をおいて取組を進めておられる朱雀第四小学校の松本先生に、特に自由研究の指導などについても触れながらお話いただきたい。
松本 朱雀第四小学校では『心豊かなたくましい子』『自ら学ぶ子』を育てようと教職員一体となって取り組んでいる。私は教師として、なによりも大事なのは、子どもたちが授業中、意欲的に学んでいる姿があるかどうかだと思う。本校では理科を中心に、自ら学ぶ子を育てようと取り組んでいる。『理科嫌いの子が増えている』という新聞記事を目にした覚えがあるが、本校児童の姿を見ると授業中いい表情で学習に取り組んでいるなと感じている。
そんな姿を見るために本校で大切にしてきたことは、まず、子どもが自然に親しみ、知るということである。体験不足な子どもたちや自然に関わる機会が少ない子どもたちにとっては何よりも大切なことではないか。教材教具の準備などは当然として、本校では動物ランドや手作りのビオトープあかしあの森を整備して、子どもたちは動物や植物に直接触れる中で多くの不思議に出会いさまざまなことを知ることにつながっている。また、子どもが自然事象に十分浸り、自分の思いやこだわりを見つけることができるような導入を工夫している。
二点目として子どもが見通しをもって学習できる思考の流れを大切にすることである。焦点化した児童の考え方や反応を考えて必要に応じて複線型の授業展開を工夫している。
三点目に自分の課題にこだわりを持って追求することを大切にしている。学習に主体的になれる姿をと考えている。このことは、自ら考え、そして判断して自分で開発していく力を育てるうえで大切だと考えている。
四点目に話し合い活動の充実と表現力の育成がある。特にノート作りに工夫している。課題、自己評価の欄のほかに予想や方法、結果、考察など自分で書き込むスペースを設けている。
以上のような普通授業の充実を特に大切にしているが、他に発展として自由研究の指導に取り組んでいる。親子自由研究学習会を設け、保護者が子どもの学習に関心を持ち、支えるためにどうすればいいのかを共に考える場としている。しかし、自分一人で研究を進めることが困難な子どもや家庭の支えが難しい子どもには学校や家庭訪問で教師が関わり研究をやりきらせるように努力している。
以前、受賞した子どもの母親から「本当に、ようがんばったんやなぁ」という言葉を聞いたとき、学ぶことの喜びや努力することから生まれる力の大きさや大切さを、子どもと親が一緒に経験できたことは大切な部分だと感じた。
岸野 今、2校の具体的な取り組みを聞いて中野先生いかがでしょうか。
中野 わかることとできることの統一、つまり、わかることとできることの間にどういったプロセスを置くかが、授業改革のひとつの大きなポイントになると思う。
子どもがやる気を持つポイントとして、「おもしろかった」「できるようになった」ということがある。両校の取り組みの共通点として、知的関心を揺さぶっていることが挙げられる。そして、の取り組みに合わせたノートという道具を持っていて、自分の知的関心の充足度や学習の路を振り返り、自己評価や他者評価ができるという共通点を持っているといえる。
岸野 本分科会のテーマに「同和教育の普遍化を図り」とあるが生活環境の実態が厳しい子どもたちに学力低下がより著しく見られるという話をしてきた。同和問題との結びつきとして生活実態が厳しい子どもたちがまさしく同和地区の子どもたちではないか、ということでパネルディスカッションのテーマを設定した。京都市の調査として同和地区の人口の激減が見られる。年齢層として今回の調査では年齢構成からみると高齢化社会ともいえる。そういう背景からも生活実態の厳しさが象徴的に表れているともいえると思う。両校の取り組みとも全ての子どもたちに対しての取り組みであるが、生活実態の厳しい子どもたちにより有効に働いているのではないかということである。そこで、布忍小学校の教育測定やマスタリーラーニングと習得学習ノートなどの成果についてもう少し説明をお願いしたい。
瀧澤 算数科における診断テストを授業改革以前、以後で比較すると、正答率80%以下の児童が減っていること、正答率90%以上の児童が大幅に増加したことが数字の上ではっきりと出ている。この10年間、少人数授業やマスタリーラーニングの中で焦点化した取り組みを進めてきたが、正答率80~90%の不安定層にいる児童がどれだけ学習意欲を持って取組めるかが、授業の流れを変える上で重要になってくる。どの児童にポイントを絞って学力向上に取り組むのかというのは、とても大事な視点となる。
学期末には具体的なデータを示しながら、学年で児童の学習の様子を話し合う。『この子はこんな感じだった…』で終わらせず、授業や指導に返していく意味での効果測定を布忍小学校では国語と算数について行っている。算数では30年前より、国語では十数年前より自校で作った診断テストをもとにデータを作っている。
岸野 朱四校では、将来を見越して、進路展望を広く持ちながら学習に取り組むための独特な取り組みをされているそうだが、その点についてお話いただきたい。
松本 本校と本校児童が進学する中学である朱雀中学、西ノ京中学、そしてスーパーサイエンスハイスクールにも指定されている堀川高校の4校で連携してリンケージ(学校間交流)の取り組みを続けている。同和地区児童をはじめとする全ての児童に理科学習における関心を高めること、中学や高校への進学意欲を高めることをねらいとして始まったものである。小学生児童が中学・高校の実験教室に参加する『ミニ科学の祭典』や、堀川高校の先生が本校を訪れて理科に関する話や実験をしてくださったり、高校生が進路や将来のことなどについて話してくれる『理科チャレンジスクール』と、年2回催している。子どもたちにとって自分の将来を考えるよい機会となっている。この取り組みが生きて同和地区児童が自分の進路に対する展望や夢を持って進学していけるよう、これからもこの取り組みを続けたい。
岸野 今日、この会場に朱雀中学、堀川高校の先生も来られていますので、フロアーよりお願いしたい。
朱雀中学 小・中・高のリンケージの中での中学校の役割ということでお話したいと思います。中学校としての理科における科学的なものの考え方、興味関心をさらに高めていく、そして、それが進路展望につながることをめざしている。小・中・高の連携を通して地域の子どもたちや地域の方々に理科の楽しさやおもしろさを知ってもらうこと、また、地域の小学生、中学生、高校生のつながりを強めていくことをねらいとしている。最初の頃は教師主導であったが、軌道に乗り始めると中学生が講師をする形になってきている。特にリンケージの経験のある朱四小の卒業生に小学生に積極的に関わっていこうとする意欲が高いように思われる。内容については生徒と共にアイデアを出し合いながら進めている。これらのことが科学的な考え方につながり、意欲や探究心を高めるきっかけになっていると考えている。チャレンジスクールの発表・報告については2年生の受賞者が担当している。やはり朱四小卒業生が多いが、母校の先生方に自分の努力をみてもらいたいということも励みになっている。これらのことも小学校の取り組みの成果の一つといえる。ただ、リンケージが理科だけの学ぶ力にとどまっていないか、他教科との連携を含め、より主体的に考える力にどうつなげていくかが、中学校としての課題である。
堀川高校 堀川高校は、京都市立高等学校21世紀構想のパイロット校として位置付けられている。様々な理念の具体化を行うための研究を続けているが、その一つに『教育センター機能による実践的教育研究』が挙げられている。そこで平成9年より小・中・高の連携を始めている。実験教室の目的として小学生にいかに科学の楽しさを伝えるかというところであるが、高校の教員としては、ややもすると、目先の受験に備えて教授する場面も多く、小学生に向けた内容については、試行錯誤しながら取り組んでいる。一方、高校生は『探究基礎』という専門科目もあり、アイデアも豊富に持っているので楽しくやらせてもらっている。自然科学分野での興味関心を伸ばすことと同時に、同和地区児童・生徒に進路啓発の機会と考えている。高校生からの生の声の効果は大きいと思う。さらに今年からは、高・大の連携も考えている。
岸野 ここで、ご意見やご質問などあれば出していただきたい。
久世中 『学力低下の実態』という本のデータをもとに学力は低下しているという前提で今日の話は進んできたと思うが、知識重視の古い学力観の時代のデータと、表現力や思考力を重視する中で古い学力観に基づいた調査結果を比較して『学力は低下した』と決め付けて議論を展開するのは危険な気がする。そのあたりの解釈について教えていただければありがたい。
岸野 いい質問だと思う。その議論についてはこの紹介した本の中でも触れられているし、いろいろな場で議論されていることである。学力観自体についてもふれていかなければならないが、そのあたりについて中野先生にお願いします。
中野 89年の時に『学力実態調査』と銘打っているが、それでは『学力』とは何か、という議論が出てくる。そこで、その議論を避けるために、『学習理解度』という言葉を使って、主として教科書の内容をどの程度理解しているかを言っている。だから『観』ということではない。その後の調査についても教科の学習理解度ということで基本的には変わっていない。生活意識調査については部分的には付け加えられているが、学力観のちがいによる問題が起こる課題設定はされていないということから、出てきた数字の範囲内において学力は低下していると認めざるを得ない。
岸野 会場より『同和教育の視点はどうなっているのか』という質問が届いていますが、例えば、家庭の学習環境の整い方ということと、「家庭学習をしない」や「板書を写さない」の割合には大きな関連が出ている。先ほどからの話でも理科だけをどうにかしたいということではなく、学習意欲をどう高めるかという話であることはおわかりいただけると思う。自由研究で努力した子どもの姿について、松本先生からお話いただけますか。
松本 夏休みの自由研究で100枚近くのレポートを独力で書いた子どもがいたが、中学校では英語にも大変興味を持つようになった。家庭的には支えの乏しい環境だったが、中学、高校と進み、英語の力を伸ばしたいと留学も経験し、今春には東京の大学へ行くということを聞いている。
嘉楽中 前半から『同和教育の普遍化』ということにこだわって聞いてきたが、後半のパネルでよくわかった。習得学習ノートの話の中、一斉授業から個別授業へ移る時に5人位ぴたりと止まる。この中に部落の子どもがいるかもしれないし、いないかもしれない。しかし、このことで、『同和教育の普遍化』ということがよくわかった。中野先生の『わかることと、できることの統一』という言葉にまさしく今までの部落の子の姿が重なり、この実践が『同和教育の普遍化』に焦点が当たっていると思った。今まで、センター学習などで取り組んできたことを授業の中で当たり前のこととして取り組んでいくことが普遍化されることだ、という感想を持った。この5人を大切にすることが、一人ひとりを大切にする教育だと思う。明日からまた、現場でこの視点を確認したい。
中野 今日の2校の共通項として小・中・高の連携が挙げられる。さらに地域との結びつきという点でも似ている。進路を考える点でも連携の中で捉えられている。今後の教育実践の中心軸をどのようにおいて進めていくかということで貴重な報告やご意見をいただいたと思う。
岸野 これでパネルディスカッションを終わります。